2011 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23520833
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
川合 康 日本大学, 経済学部, 教授 (40195037)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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Keywords | 平家物語 / 愚管抄 / 鹿ケ谷事件 / 平清盛 / 比叡山延暦寺 / 後白河院政 |
Research Abstract |
本研究は、従来、国文学研究において厖大な研究成果が蓄積されてきた『平家物語』の成立圏に関して、治承・寿永内乱史研究の成果に基づいて、歴史学の立場から検討を行うものである。研究の初年度にあたる本年度は、I「『平家物語』諸本における「鹿ケ谷事件」譚の異同の検討」、II「「鹿ケ谷事件」譚を共有する鎌倉時代の文献・諸史料の収集と検討」の研究課題について研究を進めた。 まずIの課題に関連して、本年度に検索・収集の対象とした『平家物語』諸本は、読み本系では「延慶本」「長門本」「四部合戦状本」「南都本」「源平盛衰記」、語り本系では「覚一本」「屋代本」「百二十句本」「平松家本」「鎌倉本」であり、これらは活字本とともに可能な限り影印本を古書店から購入し、その異同をノートパソコンに入力して検討を行った。その結果、同じ『平家物語』でも、「鹿ケ谷事件」譚における(1)多田行綱の密告場所とその日時、(2)安元3年6月1日の西光・藤原成親・院近習の捕縛の順番については、諸本によって記述が異なっていることが判明した。 IIの課題については、『平家物語』『愚管抄』『六代勝事記』『百練抄』のほかに、南北朝期の史料として『保暦間記』があることが確認された。これらの史料は、従来の研究でも『平家物語』と密接な関係にあるとされてきた文献であり、本研究でも捕縛日とその順番が、一次史料から判明する史実とは異なり、『平家物語』の記事と共通することが判明した。そのなかで、慈円の『愚管抄』における「鹿ケ谷事件」譚は、『平家物語』の記述に先行する可能性が高いという見通しを得た。そこで本年度は、安元3年に慈円が千日籠山修行を行っていた比叡山無動寺の現地調査を行い、延暦寺大衆が通った雲母坂の踏査を実施した。 本研究に関わる成果として、本年度は「『鹿ケ谷事件』考」(『立命館文学』624号)以下2点の学術論文の公表と、1件の学会発表を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度は、I「『平家物語』諸本における「鹿ケ谷事件」譚の異同の検討」、II「「鹿ケ谷事件」譚を共有する鎌倉時代の文献・諸史料の収集と検討」について研究を進め、いずれも順調に進んだ。『平家物語』諸本ならびに鎌倉時代の文献・諸史料における「鹿ケ谷事件」譚を比較検討した結果、『平家物語』成立圏の中心に、原初的形態の「鹿ケ谷事件」譚を『愚管抄』に書き記した慈円が存在しているのではないかとの見通しを得ることができた。 また『百練抄』など、安元3年の政変を「鹿ケ谷事件」として伝える諸文献が、いずれも実際の事実経過とは異なって、安元3年6月1日に一斉に藤原成親・西光・院近習が捕縛されたという『平家物語』と同じ記載を行っていることが判明した。これにより、これらの文献が『平家物語』との相互影響下にあることが確認され、「鹿ケ谷事件」が史実であった根拠にはならないことが明確になったものと思われる。現在、ほとんどの研究者が、『百練抄』の記載などに基づいて「鹿ケ谷事件」を史実と見なしている状況にあり、この知見は、それを覆す重要な意義をもっていると考える。 今後は、現在までの研究成果を生かして、『平家物語』と影響関係にある諸文献の成立・性格を探りながら、『平家物語』それ自体の成立圏を追究していく予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度において、I「『平家物語』諸本における「鹿ケ谷事件」譚の異同の検討」がほぼ完了したことを踏まえ、今後の研究の推進方策としては、II「「鹿ケ谷事件」譚を共有する鎌倉時代の文献・諸史料の収集と検討」をさらに進めるとともに、平成24年度は、「鹿ケ谷事件」譚に限定せずに、『平家物語』に特徴的な記事をピックアップしながら、III「『建礼門院右京大夫集』など、『平家物語』との相互交渉のなかで成立したと推定される文学作品の収集と検討」を集中的に行うことにしたい。 また平成25年度以降は、それまでの2年間の研究成果を踏まえて、IV「『吾妻鏡』『百練抄』など、後出の鎌倉時代諸史料における『平家物語』の影響の検討」に関する史料収集と分析を進めることとし、最終年度には、I~IVの総合的な見地から、『平家物語』成立圏について考察することにしたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度の研究費の使用計画としては、新たに分析対象とする諸史料と文献、すなわち『建礼門院右京大夫集』や『平家公達草紙』、『高倉院厳島御幸記』、『安元御賀記』などに関係する史料類・研究書を可能な限り購入して、手元に置いて検索・収集・検討を進めていく予定であり、平成24年度の物品費の大部分は、上記の史料類・研究書の購入費にあてる計画である。 また、本研究に関わる現地調査として、安芸国厳島神社(広島県廿日市市)や備前国有木別所高麗寺跡(岡山県岡山市)などに赴いて、現地調査・史料調査を行う予定であり、そのための旅費を支出する計画である。なお、研究の進展に合わせて、適宜、現地調査の範囲を拡大することも想定している。 史料整理や現地調査における写真撮影については、本年度に購入したノートパソコンとデジタル一眼レフカメラを活用することにしたい。
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Research Products
(3 results)