2012 Fiscal Year Research-status Report
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23520833
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
川合 康 大阪大学, 文学研究科, 教授 (40195037)
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Keywords | 治承・寿永の内乱 / 平家物語 / 愚管抄 / 建礼門院右京大夫集 / 平清盛 / 鹿ケ谷事件 / 多田行綱 / 慈円 |
Research Abstract |
本研究は、これまで国文学研究において厖大な研究成果が積み重ねられてきた『平家物語』成立圏に関して、治承・寿永内乱史研究の成果に基づいて、歴史学の立場から検討を加えるものである。研究の2年目にあたる平成24年度は、研究実施計画に記した4つの検討課題のうち、II「「鹿ケ谷事件」譚を共有する鎌倉時代の文献・諸史料の収集と検討」、III「『建礼門院右京大夫集』など、『平家物語』との相互交渉のなかで成立したと推定される文学作品の収集と検討」について研究を進めた。 IIの課題については、平成23年度からの研究を継続し、『平家物語』『愚管抄』『六代勝事記』『百練抄』ならびに南北朝期の『保暦間記』以外に、「鹿ケ谷事件」譚の記事が存在するかどうかについて検討を進めた。その結果、承久の乱後の段階で成立したと推測される『皇帝紀抄』、さらに『皇帝紀抄』を主要材料に編纂された『帝王編年記』にも、簡略ながら「鹿ケ谷事件」譚を前提とする記事があることがわかった。『皇帝紀抄』は多田行綱の「中言」を頭書として記すとともに、安元3年から治承元年への改元を『平家物語』と同様に史実と異なる時期に設定しており、『平家物語』の影響が強く及んでいることが判明した。 IIIの課題については、平成24年度は『建礼門院右京大夫集』『平家公達草紙』『安元御賀記』を中心に検討を進めた。そのなかで特に、『建礼門院右京大夫集』における平維盛の入水と青海波の舞姿の回想についての描写は、『平家物語』の主題に関わる虚構と同一であり、形成されつつある『平家物語』との相互交渉が想定されるとの知見を得た。 また平成24年度は、安元3年に藤原成親が流された備前国有木別所や長門国壇ノ浦古戦場、安芸国厳島神社などの現地調査を行い、『平家物語』における描写と現地との比較検討を行った。本研究に関連する成果としては、図書1件、学術論文2件、学会発表3件を公表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度の平成23年度は、I「『平家物語』諸本における「鹿ケ谷事件」譚の異同の検討」、II「「鹿ケ谷事件」譚を共有する鎌倉時代の文献・諸史料の収集と検討」から研究を始め、平成24年度は、IIを継続して行うとともに、III「『建礼門院右京大夫集』など、『平家物語』との相互交渉のなかで成立したと推定される文学作品の収集と検討」についても研究を進めた。 研究はおおむね順調に進展しており、平成24年1月には、I・IIの研究成果に基づいて、「「鹿ケ谷事件」考」(『立命館文学』624号)を発表した。本稿では、従来の研究史を整理しながら、安元3年の平清盛による西光・藤原成親の捕縛を、延暦寺強訴事件の延長線上で理解し、「鹿ケ谷事件」を鎌倉前期に創作された物語であると積極的に主張したが、これまで「鹿ケ谷事件」を史実と見なしてきた研究者からも一定の支持を得ている状況にある。また、『平家物語』と『百練抄』の関係についても、「鹿ケ谷事件」譚の問題から意見が交わされ始めており、議論がさらに深まりつつあるように思われる。 IIIに関連して、形成過程にある『平家物語』との相互交渉のなかで成立したと考えられる作品は、現在のところ鎌倉前期に成立した『愚管抄』と『建礼門院右京大夫集』しか見出しえていないが、従来から慈円と右京大夫については親密な関係が指摘されており、これらの分析を進めることで、『平家物語』成立圏の問題に近づくことができるのではないかと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの2年間で、I「『平家物語』諸本における「鹿ケ谷事件」譚の異同の検討」、II「「鹿ケ谷事件」譚を共有する鎌倉時代の文献・諸史料の収集と検討」については、ほぼ完了した。平成25年度以降は、III「『建礼門院右京大夫集』など、『平家物語』との相互交渉のなかで成立したと推定される文学作品の収集と検討」を継続して進めるとともに、IV「『吾妻鏡』『百練抄』など、後出の鎌倉時代諸史料における『平家物語』の影響の検討」に関する史料収集と分析を行うことにしたい。 特に、これまで「鹿ケ谷事件」を史実と見なす論拠とされてきた『百練抄』については、貴族の日記類を材料として編纂されたとされ、『平家物語』の影響を受けていることを否定する研究者も多い。しかし、「鹿ケ谷事件」譚以外でも、『平家物語』における特徴的な虚構を要約して記事にしている部分があり、『百練抄』が一次史料だけに基づいていると判断することは危険である。平成25年度は、『百練抄』と『平家物語』の記事を集中的に比較検討し、その影響について考察していくことにしたい。また、『吾妻鏡』についても、合戦譚などにおいて明らかに『平家物語』の影響を受けている箇所が見られる。『吾妻鏡』と『平家物語』の密接な関係は、従来から指摘されてきているが、今後はそうした研究史も踏まえ、『平家物語』が鎌倉時代にすでに一定の影響力をもって展開していたことを論証していきたい。なお、その際、『吾妻鏡』が『平家物語』諸本のなかでどのテキストと近似性をもっているのかについても、慎重に検討していきたい。 本研究の最終年度にあたる平成26年度は、I~IVの検討結果を踏まえ、総合的な見地から『平家物語』成立圏について考察していく予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
該当なし
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Research Products
(6 results)