2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23520837
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
高木 徳郎 早稲田大学, 教育・総合科学学術院, 准教授 (00318734)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
海津 一朗 和歌山大学, 教育学部, 教授 (20221864)
藤井 弘章 近畿大学, 文芸学部, 准教授 (00365511)
高須 英樹 和歌山大学, 教育学部, 教授 (90108001)
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Keywords | 荘園の現地調査 / 荘園景観 / 地域環境 |
Research Abstract |
主要な調査対象地として設定している和歌山県紀美野町(中世の神野真国荘の故地)の福田・安井・野中地区および赤木地区において、基幹的な灌漑水利体系の把握を行うための現地調査を2012年8月・9月と2013年3月に実施した(参加者延べ13名)。これは、前年度における現地調査が、同じく紀美野町中田・梅本・福井地区を対象とし、荘園の西側境界地域における水利灌漑調査により、荘園の境界地帯での実態把握を目指す調査であったのに対し、荘園の中心地域に近い、荘園内随一の穀倉地帯と考えられる地域における水利灌漑の実態を把握し、荘園全体の灌漑体系の全体像を系統的に理解するために必須の作業であり、研究分担者による植生調査・民俗生業調査と相まって、この荘園の成立と展開過程の一端を具体的に知ることができた点で大きな成果であった。すなわち、この荘園では、地形条件や気象条件(降水量の多い大台ヶ原に源流を持ち、山と谷が複雑に入り組む)により、たびたび洪水を起こして荘域内を乱流しているため、荘園の中心部を流れる基幹河川(貴志川)の水を灌漑に使用することはできず、そのために支流の中小河川や谷あいに構築した溜池などを主要な水源とする灌漑体系が形成されていた。したがって、荘園の中心部に近い地域においても、限られた推領を時間制で使用する時間分水のシステムを発展させたり、支流の中小河川の水を尾根を大きく迂回させて貴志川沿いの耕地に導水するなど、高度な水利灌漑秩序を構築していた。そうした秩序の構築過程で、水源を共有する村落内での結びつきが強固になる一方で、荘園内で村落を越えた連帯や共同性が高まる契機は稀薄であった可能性が考えられることが分かってきた。これは、荘園の成立過程を考える上ではきわめて重要な視点であり、最終年度において、これら現地調査の成果をふまえ、荘園制の成立過程を実態的に復元する作業に取り組みたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度において調査をほぼ終えた中田・梅本・福井地区に加え、今年度新たに福田・安井・野中・赤木地区の調査をほぼ終了できたことで、現地調査に関する所期の目的はおおむね達成されつつある。また、予備的な調査ではあるが、荘園の中核的な町場である神野市場地区に関しても、町並みの調査と、基幹的な灌漑水利体系の把握に関しては終えており、次年度以降に本格的な調査をする準備はおおむね整っているという状況である。なお、昨年度、若干やり残している中田・梅本・福井地区での未調査地域の現地調査は、今年度上記地区の調査を優先させたため、まだやり残したままであるが、次年度以降の補充調査で十分達成可能であり、次年度、最優先で取り組むことにしたい。 また、当初予定していた中間報告会についても、10月に和歌山市内で開催し、研究分担者と進捗状況および成果の共有化を図るとともに、研究グループ以外の研究者の参加も得て、活発な意見交換を行うことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
研究計画全体の最終年度にあたる2013年度は、研究の総括を行い、早い段階で成果を地元市民や研究者に還元することとしたい。そのために、現在までの現地調査で調査が十分でない点に関して補充調査を行い、これまでの成果とあわせて調査報告書を作成し、地元の関係機関や調査協力者への配布を目指す。また、和歌山市内と紀美野町内で現地調査成果の報告会を開催し、調査成果の還元を目指したい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
補充調査を最低1回、できれば2回行うため、そのための旅費の使用を想定している。また、調査成果報告書の作成のため、印刷製本費とその発送のための経費が大きな部分を占めると思われる。その他、成果報告会開催のための会場費や、報告書をまとめるにあたっての参考図書の購入などにかかる費用が想定される。
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Research Products
(3 results)