2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23520838
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
谷口 眞子 早稲田大学, 文学学術院, 准教授 (70581833)
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Keywords | 恩赦 / 近世法 / 罪と罰 / 幕藩関係 / 裁判 |
Research Abstract |
本研究の目的は、江戸時代に幕府と藩が実施した恩赦について、その関連史料を収集・分析し、恩赦をめぐる幕府・藩・寺院の複層的・重層的関係と日本近世の法・裁判の特徴を考察するところにある。2012年度の成果は、史料の調査・収集、研究発表、論文執筆に分けられる。 史料調査については、10月5日~6日に山口県文書館で史料調査を行った。恩赦適用の候補者を決めるために作成される過失書や、膨大に残る歴代藩主の回忌法要に関する史料の一部を閲覧した。また常赦に関する史料調査も行った。12月21日~22日には福井県立図書館にて、松平文庫の史料調査を行った。恩赦関連史料の複製本が作成されていたため、短時間で調査を終えることができた。6月15日~17日には法制史学会第64回大会に参加し、フランスの恩赦や中国清代の秋審裁判についての発表を聴いて、他地域の恩赦について学んだ。中国やフランスの恩赦との比較の視点を得ることができ、今後の研究を進めるうえで参考になった。 学会報告は、10月13日に立命館大学で開かれた2012年度日本史研究会大会で「幕藩権力による恩赦の構造と特質―近世中後期萩藩を事例に―」と題し1時間10分にわたって行った。大会では、この2年間で調査した毛利家文庫の史料をもとに、近世中後期の萩藩における祝儀の赦について、恩赦が適用されるまでの過程、大名家の祝儀を恩赦実施の理由とすることの政治的意味、社会に与えた影響、政治と分離した司法的発想が幕末にみえることなどを実証した。日本史研究の最大規模の学会で多くの研究者に恩赦研究の重要性を伝えることができた。 論文「幕藩権力による恩赦の構造と特質―近世中後期萩藩を事例に―」『日本史研究』607号(2013年3月)が刊行されたほか、論文「『法事の赦』の構造分析―岡山藩池田家を事例に―」が2013年度中に『岡山地方史研究』に掲載されることが決まった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
2012年度の研究計画は当初、岡山藩池田家の「法事の赦」について論文を執筆すること、加賀藩ならびに萩藩の史料を翻刻・分析すること、幕府の恩赦に関する史料を収集することだった。岡山藩については論文を執筆し、その掲載が決まった。萩藩については、2年間にわたる山口県文書館での史料調査のおかげで、日本史学界で最も大規模な日本史研究会大会において、学会報告ができた。大名家の祝儀を恩赦の実施理由にすることの政治的意味、恩赦が社会に与えた具体的影響、政治と司法が未分離だった近世から、司法の論理があらわれてくる幕末への変化など、分析対象は萩藩であるものの、大きな枠組みで、日本近世の法・裁判の特徴を考察し、学界で恩赦研究の重要性を訴えることができたのは、大きな成果であった。 また研究計画に入れていなかった福井藩について、恩赦に関する史料を収集することもできた。福井藩と加賀藩は地理的に近接しており、恩赦の地域的比較も課題の一つだからである。福井県立図書館に所蔵されている松平文庫のうち、恩赦に関する史料は、原史料を撮影した複製本が作成されており、自由に閲覧できて複写も行えたため、短時間で調査を終えることができた。「御咎之部並赦」については事前調査で確認していたが、そのほかにも「編年集要繰出目録」「御触之部(上・下)」「御咎之部並赦」「御用識式目録」「御用式目」「御用式目録」などの関連史料が見つかり、これらを複写した。 なお、法制史学会で中国とフランスの恩赦に関する報告を聞くことができたのは、大きな収穫だった。恩赦という行為は同じであっても、時代や地域によってその実施方法は異なり、政治的・司法的意味もちがってくる。恩赦が社会にどのような影響を与えたのか、あるいは恩赦が政治や司法に占める位置そのものがどのように異なるのかを、グローバルな視点で比較史的に検討することが、将来の課題であると認識できた。
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Strategy for Future Research Activity |
2013年度は最終年度である。本来であれば、この年度に大きな学会で研究報告を行う予定であった。しかし、2012年度にその機会が与えられ、近世における恩赦研究の重要性が学界で認知された。従来、大名家の祝儀や法事は儀礼としてとらえられ、それが社会に与える影響や裁判に与える変化などは、見過ごされてきた。しかし、近世は近代とは異なり、司法・行政・立法の三権が分立していない。司法の世界における恩赦という行為は、政治とは無関係ではなく、むしろ武家政治の一部を構成しているとさえ言える。 萩藩については膨大な量の史料が残っている。学会報告では祝儀の赦を扱ったので、それとの比較も含めて、萩藩における法事の赦の検討が必要である。ただし、過去2年間で収集した史料の翻刻がまだ終了していないので、史料調査は後日に期すことも考えている。 2013年度は新たに加賀藩の恩赦について考察する。加賀藩は恩赦の関係史料に関する限り、恵まれているとは言えない。祝儀の赦についてはほとんど残っておらず、法事の赦についても体系的に史料が残存しているわけではない。しかし、法令集や裁判史料が残っているので、司法における恩赦の役割や、追放刑を継続しなかった藩において、恩赦を行うことがどのような機能を有しているのか、幕府や岡山藩・萩藩と比較できると考えている。9月21日に開催される法制史学会東京部会で、研究報告を行う予定である。2012年度に日本史、2013年度に日本法制史の分野で研究発表を行うことにより、両分野で恩赦研究の重要性を理解してもらうとともに、将来的に共同研究を始めるための一歩としたい。 なお、将軍綱吉死去にともない実施された恩赦では、吉良邸に討ち入った赤穂浪士の遺児も、その適用対象となっていた。岡山藩に預けられていた遺児の例を紹介し、恩赦における日光門主の機能についても考察する予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
史料調査(旅費) 5万円 人件費・謝金(史料の翻刻作業) 20万円 その他(史料複写代、コピー代など)5万円
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Research Products
(3 results)