2013 Fiscal Year Annual Research Report
『民族』時代における柳田民俗学の組織化に関する基礎的研究
Project/Area Number |
23520839
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
鶴見 太郎 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (80288696)
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Keywords | 渋沢敬三 / 柳田国男 / 比較民俗学 / 石田英一郎 |
Research Abstract |
1920年代後半における雑誌『民族』の編集状況について、柳田国男と彼を取り巻く編集者、民俗学者の双方から資料考証を行った。見取り図として、①地方の郷土史家たちを束ねるために、相互連絡のための民俗事例紹介を誌面に優先させようとした柳田と、②ヨーロッパの民族学(文化人類学)界における先端的な研究成果を紹介しようとする岡正雄をはじめとする若手研究者、この2つの編集方針がそのまま誌面に反映されたことを確認した。この2つの方針は、一方で後者が柳田の民俗学を世界的に普遍化しようとする動きに対して、皮相の類似をもって国外の民俗を比較・理論化することに柳田が警戒するという新しい動向をもたらし、短期のうちに同誌が終刊する遠因ともなった。この人間関係は1930年代初頭、「民俗学会」が設立された時、柳田がそこに入会しないという結果を生み、「民間伝承の会」が成立するまで民俗学研究上の学界対立がしばらく続くこととなる。 ここで抽出された絶えず柳田民俗学を異民族にも敷衍しようとする動きは、戦中戦後も絶えず柳田の周辺で継続されており、その都度、柳田は心意伝承を起点に確実な郷土から民俗研究を出発させる慎重な姿勢を示した。この対峙する構造という点については柳田と文化人類学者・石田英一郎を事例に『座談の思想』(新潮社 2013年)の中で詳細に論じた。 1955年に柳田国男は民俗学とは文化人類学の一部門として活性化するという石田英一郎の提案に対し、門下が何ら反駁をしないことへの落胆から民俗学研究所を閉鎖するに至るが、その淵源は大正末の『民族』時代、すでに胚胎されていたのである。
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Research Products
(3 results)