2011 Fiscal Year Research-status Report
古代地域社会の識字と文字文化の展開に関する研究-西海道を中心に-
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23520850
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Research Institution | Miyazaki Sangyo-keiei University |
Principal Investigator |
柴田 博子 宮崎産業経営大学, 法学部, 教授 (20216013)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 出土文字資料 / 文字文化 / 硯 / 墨書土器 / 木簡 |
Research Abstract |
本年度は、大宰府跡や平城宮・京跡において出土した、古代定硯、さらに百済・新羅の定硯を実見し、古代の硯の全体的な様相を把握した。大宰府跡では宮・京に準じる質と量があり、獣脚円面硯や精巧ないわゆる猿面硯もみられた。また先行研究などから、定硯の階層性についての知見を得た。最上位に基本的に大型の硯である獣脚硯や形象硯、次にやはり大型の硯である蹄脚硯、その下に圏足硯が、大型のものが上位、小型のものが下位にあり、最下位に転用硯が実用品として位置づけられる。また中空円面硯は小型ばかりで、比較的下位に位置する。南九州では定硯は圏足円面硯と中空円面硯の二種のみが確認でき、硯の階層としては貧弱なものであった。 また南九州においては、古代の定硯を出土する遺跡は国府跡や国分寺跡など国の施設に偏在している。そのような状況下で、古墳時代以来の集落遺跡である宮崎県高鍋町下耳切第三遺跡で竪穴住居跡から出土した圏足円面硯は注目される資料である。7世紀末から8世紀初頭という硯としては南九州ではごく早い時期のものであること、胎土と精巧な造りから搬入品であることが明白である。その出所来歴は、日向地域における文字文化の導入に関与した地域を検討する素材のひとつになりえると考えられる。 調査の結果、大宰府政庁跡や、九州最大の窯跡である牛頸窯跡群出土資料、また九州における初期の須恵器窯跡群が展開する北九州市の資料とも、系統が異なることが判明した。西海道管内においては、文字のような政治的な文化の場合、その伝播が大宰府を発信地として広がる可能性が高かっただけに、やや意外な結果であった。平城宮・京における硯と比較検討したところでも、ここから直接もたらされたものでもなかった。南九州への文字文化の広がりには多様なルートがあることが窺われた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
西海道諸国のなかで硯・転用硯を最も多く出土している大宰府跡の資料と、平城宮・京の資料を実見し、文献研究とともに資料収集を行った。これにより、奈良時代における定硯のおおよその全体像を把握するとともに、南九州の定硯の様相と比較し、西海道内でも北部と南部とには地域差があることを確認できた。また南九州への文字文化の導入が、大宰府からのルートだけではなく、瀬戸内海経由など複数のルートを想定すべきことが明らかになった。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに引き続き、各地域の硯・転用硯、また出土文字資料から識字の様相を検討するため、できるだけ多くの遺物・遺跡を実見・調査し、資料収集と分析を進める。また平成23年度に比較検討した下耳切第三遺跡出土の円面硯については、四国地方に類似のものがあるとの教示を奈良文化財研究所において得ており、文化伝播を探るため、出所来歴の調査を継続する。 また大隅国については、これまで出土文字資料の集成がなされたことがないので、研究協力者の協力のもと、古代墨書土器の集成作業を進める。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
物品費:発掘調査報告書をはじめとする関連書籍、および文具類の購入に充当する。旅費:西海道諸国をはじめ、できるだけ多くの地域における硯・転用硯をはじめとする出土文字資料と遺跡を実見し、資料収集を進めるための調査旅費に充当する。。その他:研究協力者はじめ情報提供者や関係者への通信運搬費におもに充当する。
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