2012 Fiscal Year Research-status Report
古代地域社会の識字と文字文化の展開に関する研究-西海道を中心に-
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23520850
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Research Institution | Miyazaki Sangyo-keiei University |
Principal Investigator |
柴田 博子 宮崎産業経営大学, 法学部, 教授 (20216013)
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Keywords | 出土文字資料 / 文字文化 / 硯 / 墨書土器 / 木簡 |
Research Abstract |
平成23年度に引き続き、まず宮崎県高鍋町の下耳切第3遺跡出土の圏脚円面硯の出所来歴を探った。胎土と精巧な作りから搬入品であることは明らかで、昨年度来その生産地を調査してきたものである。平成24年度には愛媛県松山市において出土した定形硯を実見し、また下耳切第3遺跡出土の硯を松山市埋蔵文化財センターの専門職員に調査いただいた結果、現地の生産品と判断できそうであることが分かった。このことから、南九州への文字文化の伝播が、大宰府からだけでなく、瀬戸内海を経由した伊予地域からのルートも存在したことが判明した。これまでにも弥生時代後期以来、瀬戸内地域からの文化的影響が南九州に及んでいることは指摘されてきたが、松山市で実見した須恵器のなかには宮崎県西都市寺崎遺跡(日向国府跡)で出土しているものと同系統のものもあり、このルートが奈良時代まで続いていることが窺われた。 また宮崎県西都市宮ノ東遺跡で出土した、摩擦痕跡があるが墨痕の見られない須恵器坏・蓋について、他地域での出土遺物を検討した先行研究などから、転用硯として用いるためにあらかじめ平滑にする調整が加えられた、未使用の転用硯であることを解明した。なお先行研究によると、定形硯の使用率は官衙においても低く、実用品であったのは転用硯であること、また転用硯と解釈されてきた摩擦痕跡のある須恵器壷・甕の体部には墨痕があまり見られないことから、別の使用方法を検討する必要性が指摘されており、これらについて西海道地域での様相を確認する必要性がある。さらに転用硯の使用形態について、官衙遺跡と、大量の墨書土器を出土する集落遺跡とでは、違いがある可能性があり、そこに識字と文字使用の違いが反映されている可能性もあるなど、識字と文字文化についての課題が判明した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
宮崎県高鍋町下耳切第3遺跡出土の圏脚円面硯が、愛媛県松山市地域からもたらされたものであったことを解明できたことは、ひとつの大きな成果である。これにより南九州への文字文化の伝播が、大宰府からのルートだけでなく、瀬戸内地域からのルートもあったことが判明した。また、多量の墨書土器を出土している遺跡での、硯および転用硯の使用の実態について、検討する素材と視点を見い出すことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに引き続き、各地域の硯・転用硯、出土文字資料を検討するため、できるだけ多くの遺物・遺跡を実見・調査し、資料収集と分析を進める。特に、瀬戸内地域からの伝播が判明したことから、四国側だけでなく、山陽道地域側の可能性を確認する必要があるため、広島県での硯・転用硯の調査を行なう。 また大隅国での出土文字資料の集成が行なわれてきていないので、研究協力者の協力のもと、古代墨書土器の集成作業を進める。 さらに、宮崎県内で最も多くの定形硯と転用硯を出土している西都市寺崎遺跡の遺物の集成と、大隅国出土古代墨書土器の集成等を、報告書としてまとめ、学界に基礎資料として提供する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
物品費:おもに報告書作成にむけての諸経費に充当する。 旅費:山陽道地域および大隅国を中心に、出土文字資料と遺跡の実見、資料収集のための調査旅費に充当する。 その他:おもに方向所の作成・印刷の経費に充当する。
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