2013 Fiscal Year Research-status Report
日本中世における「水辺推移帯」の支配と生業をめぐる環境史的研究
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23520854
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Research Institution | Lake Biwa Museum |
Principal Investigator |
橋本 道範 滋賀県立琵琶湖博物館, 研究部, 主任学芸員 (10344342)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
宮本 真二 岡山理科大学, 地球環境科学部, 准教授 (60359271)
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Keywords | 中世史 / 環境史 / 内水面 / 琵琶湖 / 漁撈 / 消費 / 村落 / フナ属 |
Research Abstract |
1、「陸域と水域とが推移することを前提とした支配システムの解明」については、播磨国矢野庄における「河成」関係史料のデータ・ベース構築をすすめ、ほぼ完成することができた。そして、そのデータ・ベースにより、「河成」がいつ認定されているか、どの地域で認定されているか、特定の年にはどの地域で「河成」が認定されているか、特定の地域ではどの程度の頻度で「河成」が認定されているかなどについて分析し、環境史研究会で報告した。 2、「陸域と水域とが推移するという環境そのものを利用した生業のあり方と村落の関わり」については、近江国蒲生郡奥嶋の「水辺移行帯」を対象として研究を進めた。その結果、13世紀前後に、自然を克服して面的に利用を拡大していこうとする方向性ではなく、自然のあり方、「自然そのものの「論理」」を前提として、それをより巧妙に利用していこうという方向性の動向がみられることを明らかにし、これを「資源のより稠密な利用」と定義した。そして、その主体について検討し、下司、ムラ、個別経営それぞれが「資源のより稠密な利用」に向けてせめぎあっているなかで、惣庄(荘郷)だけがそれを抑制しようとする方向性を示していたことを確認した。その上で、その理由について、「小規模で素朴な漁撈」の個別の漁業権を自己否定するような微細な利害の調整は、荘郷のような大きな村落では不向きで、自然と密着した身近な小さな村落であるムラであるが故にできたのではないかと結論付けた。なお、この点については鎌倉遺文研究会で報告した。 3、本研究は、環境史という新しい研究潮流に位置づけたいと考えるが、その環境史の研究動向について整理し、裁許状研究会で特別に報告させていただいた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1、「陸域と水域とが推移することを前提とした支配システムの解明」については、播磨国矢野庄の「河成」データ・ベースがほぼ完成し、現在校正中である。そして、「河成」認定年、「河成」認定地域が網羅的に明らかになった。分析はまだ途中であるが、おおむね順調に進展しているといってよい。 2、「陸域と水域とが推移するという環境そのものを利用した生業のあり方と村落の関わり」については、論文「中世の「水辺」と村落―「資源のより稠密な利用」をめぐって―」の内容を鎌倉遺文研究会で報告し、その後入稿することができた。また、環境史に関する研究史整理もほぼ完成し、まもなく入稿する予定である。したがって、おおむね順調に進展しているといってよい。 以上を総合して、おおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
1、「陸域と水域とが推移することを前提とした支配システムの解明」については、現在校正中である播磨国矢野庄「河成」データ・ベースをweb上で公開するための作業を行う予定である。そして、データ・ベースの分析を行い、「河成」認定状況を解明するとともに、「河成」という認定システムのあり方を明らかにしたい。 2、「陸域と水域とが推移するという環境そのものを利用した生業のあり方と村落の関わり」については、開発史を相対化する「資源利用の稠密化」という議論を提起することができたので、これを基盤として、今後は「水辺推移帯」だけでなく、水系で結ばれている森林と併せた自然そのものの変遷と人為との関係を、中世を基点としつつも、より長期の時間スケールで研究を深めたいと考えている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
播磨国矢野庄の「河成」データ・ベース作成の作業が順調に進んだため、作業量が少なくなったことと、他の事業との関係で播磨国矢野庄の現地調査が十分にできなかったことにより次年度の使用額が発生した。 本研究において、戦後歴史学の主軸となってきた開発史研究を相対化する環境史的視点からの「資源利用の稠密化」論を提起することができた。そこで、これを基盤として、「水辺推移帯」だけでなく、水系で結ばれている森林と併せて、「自然そのものの「論理」」(網野善彦)のなかでの人間の営みを、中世を基点としつつも、より長期の時間スケールで研究を深めたいと考えている。したがって、次年度使用額は、そのための研究会を組織する経費として使用したい。
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Research Products
(14 results)