2011 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23520857
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
太田 敬子 北海道大学, 文学研究科, 教授 (40221824)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 異文化交流(シリア共和国) / 地中海(シリア共和国) / 十字軍(シリア共和国) / 海運史 / 境界領域 |
Research Abstract |
当該研究課題に関する史料収集においては、すでに研究書や論文レベルの文献史料はかなり入手しているので、収集の主たる対象はアラビア語及びギリシア語の海運書や地理書・博物誌の刊本及び写本(マイクロフィルム等)に焦点を絞った。ギリシア語文献に関しては、2012年3月13日から24日にかけて行ったキプロス共和国及び北キプロスへの海外出張において、日本では入手しがたい史料や研究書、研究論文のコピーを入手することができた。入手した史料は順次データベース化している。それらによってキプロス島関連史についてはかなり解明が進んだと考える。アラビア語史料の収集も継続したが、その過程において当該研究については、ヘブライ語やアルメニア語の史料もかなり重要であり、研究文献についても多角的な視点で検討することが必要であることが判明した。そのことは次年度以降の研究に反映させたい。 海外調査に関しては、シリア及びエジプトの政治情勢が不安定なため、東地中海の中心に位置するキプロス島のローマ帝政期からビザンツ時代、初期イスラーム時代、十字軍時代の史跡調査と文献収集を行った。キプロス島に関してはすでにかなりの文献史料を検討し、研究書・論文に関する分析を進めていたが、実際に港湾城塞や山岳城塞を訪問・調査することによって地政学的情報及び自然環境の変化による政治・社会情勢の変化など具体的な情報を得ることができた。この点は今後の研究の展開に大いに役立つと考えられる。 しかしながら、当初予定していたクレタ島とロードス島の現地調査は年度内に行うことができなかった。時間的制約から、両島については関連する図書その他の資料の収集に集中した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当該研究課題においては、9世紀から13世紀にかけての地中海を介したムスリムとキリスト教徒の関係史を、従来の研究が十字軍史及び反十字軍のジハード史の文脈に偏って検討されてきたことの反省を踏まえて、東地中海域視野を広げて地域研究の観点から東地中海史を再検討する目的とし、平成23年度には、研究の目的に掲げた東地中海海運史に関連する史料収集とデータベース化、シリア及び東地中海島嶼部の港湾都市の歴史研究に必要とされる予備調査と文献収集を行う予定であった。史料・文献収集とデータベース化・史料分析に関してはかなり順調に進めることができたと考える。研究代表者にはすでにアラビア語史料や関連する研究書や論文レベルの文献史料収集の蓄積がある上、キプロス島への海外出張において、日本では入手し難いギリシア語文献や研究書を入手することができ、現在それらの検討とデータベース化を進めている。しかしながら、旅費を使ってエジプト(カイロのアラビア語写本研究所、エジプト国立図書館、カイロアメリカ大学、アレクサンドリア図書館等)シリア(ダマスクスのアサド図書館,アレッポ大学図書館等)におけるアラビア語の史料収集を行い、シリア沿岸部の港湾都市の史跡調査をすること予定していたが、昨年来の政治情勢の混迷により実現することができなかった。そのため地中海東岸部については平成24年度に政治情勢の沈静化をまって行うことになった。しかしながら、上記の研究機関について、研究代表者はこれまでの研究において熟知しているので、訪問さえできれば24年度も研究計画が大幅に進まないという可能性は低いと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
当該研究課題の特徴から考えると、地中海全体を包括的に検討するのは理想的であるが、史料の言語的多様性等を勘案すると、本研究期間内にそれを行うことは技術的には難しい。そこで当初の計画通りに、地域としては東地中海に限定して検討を進める。これは本研究が聖地十字軍に着目することからも合理的といえる。しかしながら、中東アラブ地域、特にシリア情勢の動向が不明瞭なため、今後の研究の推進方法を確定するのは難しい。史料収集と文献研究に関しては、日本における研究推進が主流であるため、研究目的に掲げたように以下の3点を推進していく。(1) 東地中海域の一体性を確保していた技術や資源の研究。(2) 当該時期の東地中海の港湾都市史の研究。(3) 当該時期のクレタ島、キプロス島、ロードス島史の再構築。シチリア島に関しては、東地中海史に直接的に関連する場合には検討の対象とする。 時代としては、トゥールーン朝の東地中海進出が始まる9世紀後半から、聖地、及びさらに範囲を広げてキプロス島における十字軍国家の消滅(15世紀)までをも視野に入れる。(1)と(3)については、研究計画に則って推進する。特に平成23年度のキプロス調査において予想以上の進展が見られたので、全体の研究の中における(3)の比重を高めていく方針である。ただし、(2)に関してはシリア共和国内の港湾都市を訪問することは事実上不可能と思われる。そこで平成24年度においてはエジプトのアレクサンドリア、キプロス島、レバノン(或いはイスラエル)の港湾都市に重点を置いて研究していく方針を採りたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度には、作成したデータベースの分析を行い、(1)に関する成果をまとめ、口頭発表・論文執筆することを目指す。そのため、学会発表の国内出張費を確保する。また、研究代表者は9~10世紀の東地中海を巡る国際情勢と海軍力に関する論文を2009年度に発表しているので、それを時代的に拡大し、史料的にも充実させた論考を学術誌に発表する予定である。並行して、(1)及び(3)に関する文献収集とデータベース化、及び本格的現地調査を行う。まず、年度の前半に平成23年度に収集した文献史料や研究書・論文をデータベース化し、整理分類して分析を行う。それに際して入力その他に膨大な作業が予想されるため、謝金を使って事務補助者を頼むことを考えている。 平成23年度の海外出張はキプロス島に限定を余儀なくされたが、多角的視野から研究を推進するため、複数の国家をまたがる調査のための海外出張を企画する。具体的には、レバノン及びトルコ南部の港湾都市、クレタ島・ロードス島、また情勢が許せばエジプトにも出張し、カイロにおける文献調査とアレクサンドリアにおける調査・文献研究を行いたい。また、東地中海に関する研究が順調に進んだ場合は、シチリア島も研究の対象に加えたい。 平成23年度未使用額(50万)の発生理由は、平成23年度末のキプロスへの海外出張旅費が平成24年度4月の支払いになったためである。従って、平成23年度未使用額はキプロスへの旅費に使用する。
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