2011 Fiscal Year Research-status Report
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23520858
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
山田 勝芳 東北大学, 東北アジア研究センター, 名誉教授 (20002553)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 工藤忠関係資料 / 東北アジア近代史 / 第二・第三革命 / 白狼軍 / 1920年代甘粛省 |
Research Abstract |
本研究は、20世紀前半の東北アジアにおいて多くの重要事件に関わった工藤忠(初名は工藤鉄三郎)が作成した各種資料を集成し、それを東北アジア近代史研究の史料とし、新たな歴史理解を提示しようとするものである。この目的に沿って、初年度は、工藤忠周辺の人物の探求と、工藤忠関係資料の調査を主として行い、それにより所期の目的を達成することができた。特に、民国初年の大反乱白狼軍と、1915年~1916年の第三革命時期について、工藤の資料をほぼ整理することができた。ただ、その詳細な検討には、関係する歴史的事項や関係人物が多いため、多大な時間を要している。また工藤が大量に残した甘粛報告書(1920年以降、東亜同文会宛に送ったもの)については、かなりの数の新資料を追加できた。甘粛関係資料の中でも、特に詳細な検討を要する工藤の甘粛での商業活動関係の資料を、史料化するための作業にも入ることができた。なお、工藤忠が作成した報告書類は、従来考えられていたよりも広い範囲に及んでおり、軍部ではそれを再録して大陸の情報将校などに配布していたこともわかった。これら関係人物、関係事項、各種資料の探索作業を通じて、工藤の1913年以降1920年代初頭に至る各種活動について、詳細な情報が得られた。これらを基にして具体的には白狼軍関係資料の史料化作業に入り、著録を終えた。さらに「工藤忠関係資料からみた白狼軍」として論文化するため、鋭意努力中である。また同時に、第三革命期の資料についても著録を終えて、細部の検討に入っている。これに関しては、もう少し時間をかけるつもりである。さらに、工藤忠の資料調査と研究進展により、2つの学会で招待講演をし、またNHKのBSプレミアム「シリーズ辛亥革命 第2回」で、山田の開拓した関係資料が利用され、また山田も出演して工藤忠の事績を社会的にも広めることもできた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上記「実績の概要」に記載したように、工藤忠関係資料の調査面で、かなりの数の新資料を得て、白狼軍と第三革命時期の資料を著録できたことにより、順調な研究進展だと評価できる。さらに関係事項・関係人物の研究についても、広範な調査研究を行うことができ、東北アジア近代史に関する独自の視点をもつことができ、それらにより複数論文を作成する下準備とすることができた。この面でも順調な進展だとすることができる。しかし、2011年3月11日の大震災以降、余震なども含めて研究環境が大きな影響を受け、居住面、研究面での立ち直りが6月以降にずれこんでしまった。その後、鋭意回復に努めて、特に資料調査で成果をあげることができたが、論文化の面で当初予定した時間をとることができず、2011年度の投稿はできなかった。この面、「やや遅れている」側面があるといわねばならない。しかしながら、工藤忠の資料調査と研究進展により、2つの学会で招待講演をし、またNHKのBSプレミアム「シリーズ辛亥革命 第2回 ラストエンペラー 真実の溥儀」(2011年11月22日22:00~23:19放送)で工藤の事績を学会や一般に広く紹介し、その存在を認識してもらうことができた点は、研究成果の社会還元という面で大きな成果だったといえよう。以上により、論文の公刊ができなかった点でのマイナス面はあるが、全体として見た場合、(2)「おおむね順調に進展している」と自己評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成23年度に得られた成果、特に甘粛関係新資料についての検討を深め、甘粛旅行記録の歴史地理的研究を基礎として、工藤が甘粛から東亜同文会に送った報告書の全面的検討に入る。工藤の報告書と、工藤と共に甘粛に長期間滞在した斎藤源内(長寿)の個人宛報告書について、1点ずつ著録・研究を進める。工藤・斎藤の報告内容は、工藤自身の商業活動に関するものから、甘粛・寧夏・綏遠及び新疆など西北地域の政治・経済・社会・民族・宗教、あるいは大地震等々多岐にわたり、これらに関係する資料・研究も膨大なものになるので、それら関係諸資料・諸研究の調査・研究を進める。その中で、研究の進展により個別テーマとしてまとめることができるようになったものについては、適宜、論文などの形で公表するように努める。同時に、23年度に準備しながら論文化できなかった白狼軍及び第三革命時期の工藤の活動について、鋭意研究をまとめる作業を進め、特に白狼軍についてはできるだけ早く公表できるようにする。またこの時期から、小川平吉などとやりとりした手紙も見られるようになるので、「工藤忠関係資料」中の手紙類の検討も進め、これらについても著録作業に入る。これらの遂行のために、前年度同様に国内外の資料所蔵機関などの調査と必要に応じた現地調査を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
ネットを利用して、関係資料の存在が期待される大学などの学術機関の資料所蔵状況を詳細に調べた上で、実地調査に臨んでいるが、それでも把握しきれない部分があるので、本年度は愛知大学(豊橋)の所蔵資料の再調査と京都大学など関西の各機関の資料の調査を進めるつもりである。また、論文化の面で国会図書館東京本館や東洋文庫の各種資料の参照が必要になることが多いので、これらへの出張も必要になる。現在、中国などでの工藤忠関係資料の所蔵が確認できないが、必要に応じて対応できるようにする。また、大震災によって資料所蔵者が資料収蔵場所が被害を受けたため、閲覧できない状態になっているので、それへの対応のために現地に出掛けることも考えている。東北大学に所蔵すべき図書などでは、東北アジア近代史関係図書、日本近代史関係図書などに必要なものがあり、それらを随時そろえていくつもりである。また複写費用などについても必要になる。また工藤忠関係資料の著録作業を終えたものについて、可能な範囲で大学院生などにチェックを依頼するために、謝金も必要である。その他、必要物品の支出も予定している。
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