2012 Fiscal Year Research-status Report
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23520858
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
山田 勝芳 東北大学, 東北アジア研究センター, 名誉教授 (20002553)
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Keywords | 工藤忠関係資料 / 東北アジア近代史 / 第二・第三革命 / 白狼軍 / 1920年代甘粛省 |
Research Abstract |
本研究は、20世紀前半の東北アジアにおいて多くの重要事件に関わった工藤忠(初名は工藤鉄三郎)の残した各種資料を収集・整理し、それを東北アジア近代史研究の史料とし、それによって新たな歴史理解を提示しようとするものである。この目的遂行のために、初年度に引き続き関係史資料と関係研究の収集・検討に努め、かつ「工藤忠関係資料」の整理・著録作業を進めた。その中でも工藤の前半生の記録「手記」と甘粛への「旅行日誌」の著録を進め、細かな地名の検討に時間を費やしながらも、一応の整理を終えた。これをベースにして前年度からの課題であった工藤が入った白狼軍の研究を進め、論文投稿して「工藤忠資料から見た民国初年の白狼軍(白朗軍)」として公表できた。これによって、孫文・黄興の白狼軍への強い関わりを指摘してきた先行研究を全面的に批判し、孫文・黄興は白狼軍との関係は希薄だとみられることを明らかにし、また詳細な白狼軍内部情報によって“盗賊化した専業武力集団”と規定できる存在であったことなどを述べた。これによって工藤資料が中国史の大問題研究において重要な史料たりうることを明示できた。 同時並行的に第三革命への工藤の関わりも検討し、その一部については平成25年度中に公表される予定の工藤忠研究の意義を論じた拙稿で言及した。また前年度から継続している甘粛からの諸報告については、検討課題がかなり出来し、その解決のためにも多方面の研究を余儀なくされている。たとえば、細かな地名の比定が容易ではないこと、あるいは工藤が関わった銀行について1920年代の日本・中国の銀行情報を得る必要にも迫られたこと、また滞在したチベット寺院についてもチベット語とチベット仏教の組織の理解が必要になる、などである。これらの基礎的検討の上に一つ一つの資料の整理・著録が可能になるので、地道にその作業を進めている。 以上が平成24年度の研究実績である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上記「研究実績の概要」に記載したように、前年度からの課題であった白狼軍に関して論文を公表でき、それによって日本・中国の先行研究の理解を批判し、訂正できたことは大きな研究成果であると考えている。また「工藤資料」の著録・整理作業も、スピードは決して速くないが着実に遂行できている。その過程で個別の検討課題がかなり多数出来しているが、それらについての考察を進めることで、従来の研究では言及されていないようないくつかの問題について詳細な情報を得ることができた。 また「溥儀の忠臣・工藤忠と二〇世紀前半の東北アジア―工藤忠研究が近代史研究にもたらすもの―」と題して、工藤忠研究の意義を述べた拙稿を用意しており、平成25年度中に公表される予定である。それによって改めて「工藤忠関係資料」研究の意義と工藤資料の東北アジア近代史研究における重要性を、広く知らしめることができると考えている。 ただし、著録作業は多数の課題出来のため必ずしも順調とはいえない側面もあり、そのため達成度としては「(2)おおむね順調に進展している」に該当すると自己評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
「工藤忠関係資料」のうち、平成23・24両年度でも進めてきた甘粛関係の資料を著録・整理する作業を進め、関連する手紙類なども整理する。同時に甘粛に関わる大地震その他の諸問題についての検討を進め、できるだけ多くの資料を史料化して公表できるようにしたい。工藤の甘粛からの報告は、資料所蔵者の工藤家のもの以外のものもかなり見出されているので、所蔵機関との関係で必ずしも全てを公表できない可能性がある。その場合でも所蔵データを公表するようにしたい。 24年度の各機関への問い合わせや実地調査では、資料の補修作業や図書室などの耐震工事や改修などのため資料閲覧ができなかった所があり、そういった機関での資料調査と、著録作業によって出来するであろう検討課題に即して各種機関での調査を進める。 これらを同時並行的に進めつつ、科研費研究報告書の形で「工藤忠関係資料」をできるだけ多く著録・整理して学界・社会で利用できる史料化する予定である。この報告書では資料現物の状態を示すためできるだけカラー写真を添えるつもりである。25年度後半はこの作業と関連する課題の検討に時間を費やす予定としている。 以上が最終年度である25年度の研究推進方策である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
まとめをする最終年度であるため、著録作業を進めると同時に、各種機関での資料調査を進める必要がある。特に資料利用が6月以降可能になる愛知大学(豊橋)での調査、及び必要史資料・研究の調査に不可欠な国会図書館・東洋文庫など内外の機関への出張が必要になるので、それらの出張旅費を使用する。 また東北大学に所蔵すべき図書などについては、東北アジア近代史関係図書、日本近代史関係図書などに必要なものがあり、それらを随時そろえていく。また研究報告書作成のために必要な物品購入も行い、作成した研究報告書を広く関係機関に送付して東北アジア近代史の史料として利用できるようにすることが必要である。そのため、報告書印刷(カラーページあり。部数は100部前後は必要と考えている)と関係機関への送付を予定しているので、これらの費用が必要である。
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Research Products
(1 results)