2011 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23520872
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Research Institution | Tohoku Gakuin University |
Principal Investigator |
谷口 満 東北学院大学, 文学部, 教授 (10113672)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 楚式鬲 / 丹陽 / 郢都 / 楚族の南進 / 楚族の東進 / 典型楚文化 |
Research Abstract |
楚式鬲の出土報告及び関連論著のうち、1980年~1995年分のそれらを収集・精読・整理するとともに、湖北省武漢市・随州市・襄陽市・老河口市・穀城市・宜城市で出土した楚式鬲の現物を現地で調査して、殷式鬲・周式鬲との比較のもとに楚式鬲の形態的特徴と製法を確定したうえで、楚式鬲の時代的変遷と地域的差異を考察した。 その結果、股(また)のつながった円腹に近い典型的な楚式鬲が登場してくるのは春秋中期以後のことであり、それ以前の楚国領域内における陶鬲は、基本的に股の大きくへこんだ周式鬲の一種であったこと、その周式鬲から典型楚式鬲への展開の時期には地域差があり、荊山東麓を中心とする漢水西側では春秋時代の早い段階から始まっていたのに対して、いわゆる随棗走廊を中心とする漢水東側では、より遅く戦国時代早期をまたねばならなかったことを確認した。これは楚文化の形成と展開及びその変容を理解するうえでの、きわめて重要な新知見であり、この新知見を獲得しえたことは、今後の研究のための着実な基礎を打ち立てえたものと評価できる。また現地調査の過程で、50件あまりの楚式鬲を素材にその製法を復元して、典型楚式鬲のそれが、器体と足の部分を別々に製作し、その後に両者を接合するという、殷式鬲・周式鬲にはまったく見られない独特なものであることをあらためて確認しえたことも、大きな成果である。 また研究活動をすすめるなかで、北京大学高崇文教授・武漢大学王然教授・西北大学趙叢蒼教授の手配により、多くの若手研究者と実質的な学術交流を開始することができたことも、とくに注記しておきたい。なお、成果の一部は、「襄陽再訪記-襄陽・老河口・穀城・宜城に楚式鬲を訪ねて-」(『アジア流域文化研究VIII』)及び23年10月開催(武漢)の「四省楚文化研究会年会」における口頭発表「早期楚文化探索的注意」によって公表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
楚式鬲のような陶器の形態と製法を正確に認識するためには、実測図や図録・写真だけではどうしても限界があり、現地に赴いて現物を実見することが不可欠である。湖北省文物考古研究所・随州市博物館・襄陽市文物考古研究所・宜城市博物館などの特別の配慮により、総計200件あまりの楚式鬲及び関連する周式鬲の完器を実際に手にすることができたのは、この点、研究の進展に大きく寄与したものと考える。またその際、襄陽博物館王先福館長をはじめとする現地専門家の教示を直接受けることができたのも、大きな成果である。この作業については、目的のおよそ90%を達成しえたと評価している。不足10%は、時間の都合上、予定していた襄陽と随州の中間にあたる棗陽地区での現地調査を実現できなかったことによる。 現地調査と「四省楚文化研究会」の場において、武漢・西安・老河口・宜城・宜昌・岳陽・長沙の現地研究者と直接の情報交流を実施しえたことも、大きな成果である。これによって、長江中流域各地における、楚式鬲及びそれに先立つ殷式鬲・周式鬲の出土情況の大要を把握できたのは、きわめて有益であった。 他の陶器と同様、楚式鬲も完器よりは残片で出土する場合が多く、それらの残片も貴重な資料である場合が多いのであるが、今回の現地調査では残片の実物考察をほとんど実施しえなかった。ことに資料価値の発揮が予想される復元作業中の残片を観察することができなかったのは、まことに残念である。また日本国内では入手することのできない、中国地方学術機関の関連紀要類も、鋭意収集を試みたものの、目的の約半数しか収集しえなかった。このような事情が、予想以上に研究が進展したという最高評価をなしえない理由となっている。
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Strategy for Future Research Activity |
未だ目睹しえていない楚式鬲の出土報告及び関連論著について、網羅的な収集・精読・整理を試みること、未だ実施しえていない地区での現地調査を試みること、その上で、実測図・図版・写真を付し、時間軸と地理軸を設定した「楚式鬲編年・分布表」を作成することが第一の方策である。そして、その「編年・分布表」をもとに研究論文「楚式鬲の研究」を執筆し、それを25年10月に開催(長沙)予定の「四省楚文化研究会」に提出することが第二の方策である。その論文の内容は次のようなものである。一.楚式鬲の形成地とその発生のメカニズム。二.楚式鬲の南進と楚都丹陽の位置。三.荊州地区の楚式鬲出土情況と楚都郢都の位置。四.楚式鬲の東進と漢水東部の諸侯国。五.楚式鬲の拡散とその消長。六.楚式鬲から楚系青銅器へ。 本研究課題の目的は、楚式鬲を中心資料として楚文化の形成と展開及びその変容を跡付けることであるが、それは言い換えれば、楚国の形成と構造及びその展開を跡付けることでもある。研究代表者は長年にわたってとくに歴史地理の観点からこの楚国史の研究を進めてきており、したがって本研究によるいわば考古学的成果と従来のいわば歴史地理学的成果をあわせて、『楚国形成史の研究-歴史地理的考察-』という学術研究書を公刊するのが第三の方策である。その研究書の内容は次のようなものである。第一部.楚国都城の位置問題。一.郢都の始建と変遷。二.丹陽探索。三.出土文字資料と楚国歴史地理研究。第二部。楚国の形成と構造。一.楚式鬲の形成と展開。二.祖先伝承と楚国の構造。三.第一次楚国と第二次楚国。表示のとおり、本研究課題の成果は主として第二部の一と三に取り入れられることになる。 なお今後の研究においても、湖北省・湖南省・河南省・陝西省の各学術機関・各研究者と有効な学術交流を実施することはいうまでもない。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
旅費 446,000円 昨年度に引き続いて、楚式鬲の現地調査を実施する。行程は、西安→商洛→商南→淅川→丹江口→襄陽→荊門→荊州→宜昌であり、丹江流域・漢水上流・荊山東南麓一帯の楚式鬲を調査する。仙台~上海の往復航空運賃・上海~西安の片道航空運賃・宜昌~上海の片道航空運賃及び13泊14日の日当・宿泊費、あわせて389,000円である。なお、このうち航空運賃は、平成24年3月時点での実費見積であり、実際の使用にあたっては多少の変動が見込まれる。国内では早稲田大学長江流域文化研究所で情報交流を実施し、旅費は仙台~東京往復運賃・2泊3日の日当・宿泊費、あわせて57,000円である。 物品費 158,000円 昨年度の作業を受けて、楚式鬲の出土報告及び関連論著のうち、1995年以降現在までの分を収集・精読・整理する。その作業において不足の関連図書を購入するために、単価9,000円×12冊=108,000円の物品費を計上する。また、その作業においては、映像ソフトをはじめとする種々の用品の購入が必要であり、そのために物品費50,000円を計上する。 人件費・謝金 96,000円 資料・情報の整理・入力及び図版・写真の複写・整理には院生・学部生などの作業補助が不可欠であり、その謝金として人件費・謝金96,000円を計上する。内訳は、院生単価875円、学部生単価680円(いずれも1時間)に基づき院生のべ8名・日、学部生のべ10名・日を計上する。 総計 700,000円
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Research Products
(3 results)