2011 Fiscal Year Research-status Report
昭和前期における日本人とタタール系トルコ人との交流史
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23520876
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Research Institution | Toyo University |
Principal Investigator |
三沢 伸生 東洋大学, 社会学部, 教授 (80328640)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 国際研究者交流 / トルコ / タタール / イスラーム / 中東 / 西アジア / 東洋史 / 交流史 |
Research Abstract |
本研究は、日本とイスラーム世界との交流史、とりわけ日本が本格的にイスラーム世界との交流を推進した昭和前期を研究対象期間として設定し、その交流に大きな役割を演じたタタール系トルコ人と日本人との交流の詳細な実態に関して研究することを目的とする。具体的には、第一に基本史料の探索・収集し、第二に収集した諸史料の分析を通して日本人とタタール系トルコ人との交流史の全体像の解明を行うことを目的としている。 本年度は「研究実施計画」に基づき、1次史料として夏季短期調査時にトルコにおいて、研究協力者のAli Merthan DUNDAR准教授(アンカラ大学、※掲載は本人承諾済)の協力を得て、昭和前期にロシア・ソ連から日本へ亡命・滞在していたタタール系トルコ人たちの写真・書簡・私文書、日本においてはこうしたタタール系トルコ人たちと交流していた大久保幸次(駒澤大学教授)関連の写真・未刊行原稿・書簡・私文書を探索・収集した。2次史料として大久保幸次の著作の徹底的調査を行い、複写収集・電子化を行いながら文献目録を完成させてデータベースを構築した。同時に国内で刊行されたタタール語出版物の探索を行った。 上記の史料は、徹底的に分析を行い、本年度に大いに成果のあがった大久保幸次に関しては文献目録を含む論文を執筆し、また大久保幸次の業績を中心に在日タタール系トルコ人関連の分析を完了したした写真・書簡・私文書の写真を含めて英文による単行本を刊行した。従来忘却されていた大久保幸次の業績を再評価・公開できたことは本年度の業績のうち最も意義ある重要なものである。これにより埋没している大久保幸次と在日タタール系トルコ人関係の諸史料が再発見される契機となるであろう。 また成果公開のためにこうした史料およびデータベースを公開する場として、ホームページを作成して中間年度より順次公開していく準備を整えたことも成果である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度は「研究の目的」に即して、昭和前期の日本におけるタタール系トルコ人にかんする1次史料(日記・書簡・個人写真などの私文書史料)・2次史料(図書・新聞・雑誌などの刊行物史料)の両者について探索・収集・分析を進めてきたが、1次史料に関しては、トルコにおいて研究協力者のAli Merthan DUNDAR准教授(※掲載は本人承諾済)の協力を得て、予想以上に収集することが出来たものの、現在では当事者・関係者の多くが物故しているために、史料の内容分析・データベース化が計画通りに進めることができず未解決の問題を残った。そのため当初予定していた本科研費予算によるCD-ROMまたはDVDによる史料集の刊行を見送り、研究成果刊行として、分析ができ個人情報公開の点でも問題のない1次史料を補完的に用いた2次史料を中心とした英文による単行本の刊行に留まることとなった。 2次史料に関しても、日本で刊行されたタタール語の刊行物がトルコにおいても公的研究機関に収蔵されているものが少なく、雑誌・新聞の探索・収集において予定よりも時間を要することが分かった。 上記の点から、達成度にかんしては「やや遅れている」と自己点検するものであり、この遅れにかんしては中間年度である平成24年度に解決を図るべく準備を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度の研究成果により、従来まで長く忘却されていた昭和前期の日本におけるタタール系トルコ人にかかわる諸史料が埋没しているものの、同時に現在であればこうした諸史料が完全に消失される前に探索・収集・分析・データベース化が可能であるということを明らかにすることができた。当事者・関係者が高齢化し、関連史料が失われ続けている現在、本研究課題の遂行は急務である。 そのため今後の研究の推進方針として、現在の研究目的を維持しながら、日本およびトルコさらには他の国々において1次史料・2次史料の両者に関して探索・収集・分析・データベース化を進めるという方針を堅持していく。本年度成果の英文単行本は日本人のみならず在日トルコ人、トルコにおけるトルコ人研究者たちにおおむね好評を得ており、こうした成果公表がさらなる諸史料発掘につながるものと期待している。本年度は初年度に作成を見送ったCD-ROMまたはDVD史料集などの成果物を初年度繰越金とあわせて作成を進めていく。 また史料探索の過程において、日本では代々木の東京ジャーミィ(=東京モスク)近辺において、トルコでは研究協力者のAli Merthan DUNDAR准教授の尽力により首都アンカラにおいて、いずれも少数ではあるもの、在日タタール系トルコ人の当事者・関係者に知遇を得ることができた。中間年度以降においては、物的史料についてはもちろんのこと、彼らに対して聞き取り調査を行うことも推進していくことも方策として採用する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
初年度に得られた成果を基にして、第一に進捗にやや遅れのある、1次史料の分析と2次史料である日本で刊行された新聞・雑誌の探索・収集に関して解決を図る。次いで第二に初年度に引き続きタタール系トルコ語史料と日本語史料の両者について史料の探索・収集、得られた史料の分析・研究による昭和前期における日本人とタタール系トルコ人との交流の詳細を明らかにしていく。具体的には日本語史料に関しては、初年度成果を引き継いで大久保幸次に関して1次史料のデータベース構築を目指す。またタタール系トルコ語史料としては、具体的には戦前に在日タタール系トルコ人が東京に設立した東京回教印刷所で刊行されていた、タタール系トルコ語の図書および雑誌である、 Japon Mohbiri(=日本情報) また Yeni Japon Mohbiri(=新日本情報)という、中近東をはじめとするイスラーム世界に日本を紹介する雑誌にかんして、スキャンに基づく電子化、史料内容を詳細に分析して書誌目録の作成を行いつつ、汎用性の高い史料データベースを構築して、一般に公開していく。同誌は日本国内の大学・公的研究機関に完揃いが存在せず、探索が求められている第一級史料である。 また初年度の日本およびトルコにおける史料探索・収集過程において知己を得た在日タタール系トルコ人への聞き取り調査を行い、個人史研究を補完的に推進しながら昭和前期の日本人とタタール系トルコ人との交流を明らかにしていくことも計画している。 研究成果は学術論文・学会口頭発表をするほか、分析・データベース化した史料の公開に際しては、初年度に作成を見送ったCD-ROM版ないしDVD版による史料集などの成果物を初年度繰越金と合わせて作成、ならびに初年度に構築したホームページを用いてを行うことを計画している。
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