2012 Fiscal Year Research-status Report
昭和前期における日本人とタタール系トルコ人との交流史
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23520876
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Research Institution | Toyo University |
Principal Investigator |
三沢 伸生 東洋大学, 社会学部, 教授 (80328640)
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Keywords | 国際研究者交流 / 中東 / トルコ / オスマン帝国 / イスラーム / タタール / 回教政策 / アジア主義 |
Research Abstract |
平成24年度は、研究実施計画に基づき前年度に引き続き、タタール系トルコ語史料と日本語史料の2部門について、史料の探索・収集・分析さらに、その成果を電子スキャンしデータベース構築を進めた。タタール系トルコ語史料、とりわけ戦前・戦中期において在日タタール人が東京に設立した東京回教印刷所の図書・逐次刊行物にかんして新規にいくつかの現物の入手・複写ができた。国内外の大学・研究機関においても現存が確認されていない、こうした史料を探索できたことは極めて意義深く重要である。日本語史料に関しては平成23年度の成果に基づき、戦前・戦中期に在日タタール人と交流の深かった大久保幸次の私文書史料(写真・書簡など)の探索に一定の成果を収めたほか、仏教系日刊新聞である『中外日報』に所収されるイスラーム関係記事のデータベースを制作することができた。従来の研究においてほとんど顧みられなかったものの、仏教系新聞は大手日刊新聞以上にイスラームに注目し報道している事実を解明した。 こうした研究の進捗に基づき、平成24年度は、研究業績として、具体的に著書2点(いずれも共著=分担執筆、1点はトルコで刊行されたトルコ語著書)、論文6点(うち単著4、共著2、またうち2点は英語)、口頭発表2点(2点ともトルコ語、トルコ側の招聘に基づく学会・講演会発表)を行った。また前述のように探索・収集・制作したデータベースの一部は個人ホームページ上に公開した。 2年目である平成24年度、トルコ共和国においても本プロジェクトの意義・重要性が認知され、多くのトルコ人研究者と研究協力が進み、トルコにおける招聘口頭発表・トルコ語による著書刊行に至ることが出来たことは本年の大きな成果であった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究が対象としている昭和前期(=戦前・戦中期)の日本人とタタール系トルコ人との交流は、従前ほとんど顧みられずに当事者・関係者が物故・高齢化し、関係する史料(刊行物あるいは日記・覚書・書簡・写真などの私文書)の多くは喪失・埋没している。 そのために本研究において、関係する諸史料の探索によるデータベース構築と史料の分析に基づく交流史の実態解明の2つの方針をたてて推進してきた。 初年度である平成23年度に一定の成果を収めて、具体的には在日タタール人と日本人との交流の最重要人物のひとりである元駒澤大学教授の大久保幸次にかんする史料収集と著作リストの作成に成果をあげ、英語にて図書を刊行することができた。平成24年においても、短期海外調査をおこなったトルコや日本各地において史料探索において一定の成果をあげることができた。日本や海外の研究機関において所蔵されていない諸史料の探索・分析は重要であり意義深いものであったものの、平成23年度の大久保幸次関係史料の場合と異なり、平成24年度の史料は質的・量的には充分ではなかった。そのために当初予定どおりにデータベース構築を進めることがかなわず、平成23年度のように図書刊行や制作したホームページの改良・充実化をはかることができず、予算に関しても繰越金が発生した。 しかしその一方で、本研究は国内外で注目され、史料の分析・研究に基づいて著書・論文・口頭発表では、英語やトルコ語執筆、あるいはトルコの学会に2度招聘されて口頭発表を行うという成果をあげることができた。 こうした状況を勘案して、提出した「研究の目的」に照らしわせて、上記のように「やや遅れれている」と自己点検・評価するものである。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度である平成25年度において、平成23・24年度と同じく、埋没・行方不明になっている昭和前期(=戦前・戦中期)の日本人とタタール系トルコ人との交流の実態にかかわるタタール語・日本語諸史料を探索・収集・複写収集・分析しながら、交流の実態を解明するという基本方針は変わらない。 しかしながら平成25年度が本研究の最終年度であることから、過去2年間、可能な限り様々な史料を探索してきたが、成果公開としてのデータベースの完成を目指して、今後においては、史料の数量・種類を単純に増やすのではなく、分析の一貫性をもって、関係者・関係地域を特化しつつ補完史料の収集を優先していくことを推進方針とする。 具体的には、平成23年度に一定の成果をあげ、図書刊行に至った日本人・タタール系トルコ人交流の最重要人物の一人である、元駒澤大学教授の大久保幸次の私文書史料を保管する諸史料、東京で在日タタール人によって設立・運営されていた東京回教印刷所で刊行されていた図書・逐次刊行物(Yapon MohbiriおよびYeni Yapon Mohbiri)の完揃い化、平成24年度に成果をあげた日本の仏教系日刊新聞である『中外日報』掲載されるイスラーム関係記事のデータベース化の充実化、あるいは「研究実施計画」に平成25年度に目標に掲げた戦前・戦中期に日本占領下の奉天で刊行されていたタタール系トルコ語日刊新聞のMilli Bayrakなど、諸史料のなかでも成果を上げているもの・上がる見通しがあるものを優先して、探索・収集・複写収集・分析を推進していく方針である。 上記の研究を通して、最終年度として史料データベースの完成とともに研究成果公開を大きな推進方策とする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度において、本研究の主眼である昭和前期(=戦前・戦中期)における日本人とタタール系トルコ人の交流の実態を解明するうえで基本的史料にかんして、具体的にタタール系トルコ語史料と日本語史料の2部門において、探索・収集・分析を推進して、一定の成果をあげることができたものの、これらの史料について依然として所在未確認のもの、逐次刊行物にかんしては完揃いに至っていないものが存在する。終戦後65年以上経過した現在においては、当事者・関係者の物故・高齢化により、史料の探索は想像以上に困難な状況にあり、業務委託でのデータベース構築も進めることができなかった。具体的には平成23年度に製作したホームページを平成24年度に充実化・改良するに至らず、当初予定通りの史料データベース構築の遅れが発生し、繰越金が発生した。次年度は最終年度であり、平成24年度の繰越金と合わせて、平成25年度の請求額とあわせた研究費を活用して、日本国内各地の研究機関での史料探索・関係者への聞き取り調査、およびトルコ共和国もしくは戦後多くの在日タタール人が移住したアメリカ西海岸地域へ短期海外出張を行って、上記の未発見・欠損する史料を可能な限り最大限探索・収集・複写収集・分析して、データベースの構築を終え、研究成果を公開することを計画している[=旅費・物品費・業務委託費]。具体的な公開方法として、データベースを利用した史料集の製作、ホームページの改良・充実化を計画している。また同時に学術著書・学術論文・口頭発表を日本および海外において行うこととする。
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