2012 Fiscal Year Research-status Report
中国近世社会像の再構築に向けた宋~清の地方志及び碑文に関する記録伝承の地域史研究
Project/Area Number |
23520877
|
Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
須江 隆 日本大学, 生物資源科学部, 教授 (90297797)
|
Keywords | 東洋史 / 中国近世史 / 地域史 / 記録伝承 / 地方志 / 碑文 / 国際研究者交流 / アメリカ合衆国 |
Research Abstract |
本年度は、前年度の成果を踏まえ、宋から清の各種地方志に長期にわたり記録された叙述の抽出及び解析と、叙述の史料源を碑文の悉皆調査により突きとめる作業に着手し、各地方の記録の伝承過程を探ろうとした。主な具体的な研究実績は以下の通りである。 1、特に不充分であった江浙の上海、嘉興地区の史料蒐集・複写を、東北大学において二度実施し、当該地区の宋から清にわたる地方志の系統的分析と史料性解明に向けた序跋文の精読・解析作業を重点的に行った。またこれらの作業と並行して、江浙の上海、嘉興、紹興地区については、新規に電子テキスト化された地方志と紙媒体の地方志とを購入し、各種の地方志に長期にわたって記録された言説の検索作業を行った。 2、未着手であった浙江の台州、温州地区や福建の福州、興化、泉州等地区の地方志に関する史料調査と系統的整理、各地方志の序跋文の検索・蒐集作業についても、既存の設備図書などを駆使して開始した。 3、中華帝国下における浙江・寧波の地域性を歴史的に解明しようとした研究成果を、東北大学で開催された第61回東北中国学会大会で、「中国近世地域史研究試論」と題して口頭発表し、真の中国近世地域史研究とは、如何なるものかを公に問うた。 4、昨年度関与した第56回国際東方学者会議シンポジウム「中国宋代における「地域」像-中央集権的文臣官僚支配国家下における「地域」史研究-」での海外研究者の成果を広く公にすべく翻訳・校閲し、上記3、の成果をもあわせた成果物刊行に向けた編集・校正作業に携わった。この書物は、次年度早々に岩田書院より出版される予定である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、中国近世期の社会像を、宋から清の地方志及び碑文に見出せる長期的に伝承された記録の分析を通じて、地域史研究の視点から、社会文化史的側面に注目して再構築することにある。その達成に向けて今年度までの段階で、当該研究テーマに関する内外の課題の明確化をはかった上で、各種地方志の史料性の生成論的解明や、各地方の記録の長期的な伝承過程の探求を行い、各地域の歴史的特質を明らかにする作業を本格化することを当初の計画としていた。 この内、内外の課題の明確化については、昨年度の国際会議での討論やその成果の本年度における成果物化に向けた試みにより達成できている。またそれ以外の作業についても、中国東南沿海地方に焦点を絞った本研究において、当初計画していた全ての地方で、現段階までに上記作業が順調に進展しているとはいかないまでも、蘇州、上海、嘉興、紹興、寧波地区については、かなりの研究成果があらわれている。 なお、当初本年度においては、米国サンディエゴ市で開催される、第72回米国アジア学研究協会年次大会にて、地方志・碑文を活用した中国近世地域史研究に関するパネルを、米国在住の研究協力者等と組織する予定であったが、再来年度5月に、本研究課題と密接に関連するシンポジウムを、東京で開催の国際東方学者会議の場で組織することになったため、渡米を中止し、計画の変更をした。しかし、海外の研究協力者とは、電子メールを通じての連絡を密に取っており、国際学術交流による中国近世地域史・地域史料研究のグローバル化に向けた活動を継続している。一例として、米国のペンシルバニア大学で2013年4月に開催されるアジア史料論に関するシンポジウムの情報などを得ている。 以上の理由から、現在までの達成度としては、おおむね順調に進展していると判断した。
|
Strategy for Future Research Activity |
先ず、2年間の研究期間を終えた段階で作業が遅れている、浙江の台州、温州地区や福建の福州、興化、泉州等地区の地方志に関する史料性の解明に向けた、系統的整理や序跋文の精読・解析作業を重点的に進めていく必要がある。 次に、本年度に重点的に行った江浙の嘉興、上海地区に関わる継続的作業の完了を次年度中に目指すことを目標とする。特に本年度までに抽出を行った、当該地区の各種地方志に長期にわたり記録された言説については、その史料源を碑文の悉皆調査により突きとめ、どの地方に、如何なる記録が、どのような過程を経て、誰によって伝承され続けたのかを明らかにしていく。その上で、これまでの全ての成果をも踏まえて、中国東南沿海各地方の近世期における社会文化史的独自性の探求を次年度中に本格化したい。次年度においても上記の個別の研究成果は、段階的に国内外の学会や学術雑誌等で公表していく。 最終年度に当たる再来年度は、既存の成果に、4年間にわたる研究成果を加えて研究全体の総合化をはかる。具体的には、既存の蘇州、紹興、寧波地区における研究成果と、前年度までの成果とを総合化することにより、中国近世期における東南沿海地域の社会文化史的独自性を解明する。またかかる成果を踏まえて、中国及び東アジア海域で果たしてきた近世期の東南沿海地域の歴史的かつ現代的意義についても検討を加える。なお、東京で開催される第59回国際東方学者会議でパネルを組織し、本研究の成果の一部を披瀝する予定である。 4年次にわたり行われた本研究の全成果は、報告書を作成して提出する見込みである。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
宋から清の各種地方志に長期にわたって記録された叙述の抽出及び解析と、多様な史料源に所収される各種碑文の悉皆調査の作業の効率化をはかるために、本年度同様に引き続き電子テキスト化された「中国典籍データベース」等を新規購入する(計130千円)。 また陸続と刊行されつつある校勘が施された地方志や拓本・釈文を含む碑文関連図書についても、各種テキストを比較検討する上で不可欠であるので、必要に応じて購入する(計100千円)。 地域史料を多く含む『四庫全書』等の大型叢書の調査・蒐集については、東北大学等の国内主要大学で行わざるをえないため、2回分の史料調査旅費と史料複写費を計上する (計100千円)。 なお、再来年度の開催がほぼ決定した本研究課題に密接に関わる国際会議シンポジウムの打ち合わせを、九州大学で行う可能性も生じそうなので、次年度に予定していた1回分の京都大学での史料調査旅費を振り替えて、この分の研究打ち合わせ旅費として計上した(計60千円)。またこの国際会議で要する翻訳に関わる謝金等については、最終年度に計上する予定である。 加えて次年度は、研究に要するOA関連消耗品、文房具、内外研究者との通信費等の経費なども引き続き計上した。
|
Research Products
(8 results)