2011 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23520889
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
保坂 高殿 千葉大学, 文学部, 教授 (30251193)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | ローマ帝国 / キリスト教 / 国教化 |
Research Abstract |
権力中枢における異教徒とキリスト教徒との政治的抗争の実態を解明するためには法文書を初めとする文献資料を駆使しての、個々の有力政治家、官僚、宮廷人の社会的身分および宗派的属性の解明を目的としたプロソポグラフィックな考察が不可欠になる。そこで本年度は、皇帝側近および元老院議員の動きを考察するに先立つ作業に着手した。すなわち、コンスタンティヌス以降の諸皇帝の行政措置の概略を個別的事例の分析を通して明らかにすることである。その目的で、特に異端諸分派に対する対応を検討することとし、異端に対する厳しい態度を取り始めた時期、場所、動機と目的を『テオドシウス法典』および周辺文献を基に分析し、異端に対する集会禁止命令および都市追放令が主に宗教的動機からではなく、治安的観点からなされたことの他、帝国の一行政機関としての教会組織の整備という目的をも示すことができた。この点は対異教政策、対ユダヤ人政策との比較において興味深い。対異端、対異教、どの関係においても帝国の施策は教会側からの申し入れに基づて執行されており、帝国がキリスト教の率先した国教化を意図していたことの形跡はないからである。 本年度のもう一つの研究実績に数え入れるべことは、研究計画に入れなかったものの、その重要性から検討課題として浮上した『コンスタンティヌスの生涯』の真贋性および著作年代とその社会的背景についての研究である。これは既に昨年度にも部分的に着手したものだが、特に年代決定と社会的背景の解明は異教とキリスト教の間の確執の様相を多く垣間見せる文書だけに、動機分析をも含めたより精密な考察が4世紀帝国のキリスト教化過程における帝国側の受動性を裏付けるために必要かつ有益であると判断した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
4世紀の帝国と教会の関係を論じる際の最も重要な基礎史料である『コンスタンティヌスの生涯』の文献学的検討という予定外の課題に取り組まざるを得なかったため、研究計画に記した課題のうち果たすことができたのは、『テオドシウス法典』第16巻第5章と10章所収の異端派追放令および異教徒に対する宗教的活動制限令を取り上げて発令の動機と目的を解明することに限られ(この点の達成度は7割程度)、残りの対ユダヤ人およびサマリア人対策については史料に即した考察はできなかった。作業がやや遅延している理由は上記の他、テキスト分析の結果、当初は予期していなかった歴史的実態に直面することになり、事前に構築していた思考のモデルの修正を余儀なくされたことにもある。
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Strategy for Future Research Activity |
古代帝国における政治と宗教との関係を正確に見極めるためには、対立の当事者、すなわち帝国と教会、異教徒とキリスト教徒との単純二項対立的な表層的関係の考察では不十分であり、帝国(異教徒)側の内部事情(皇帝、官僚、宮廷、元老院、軍、一般市民)のみならず、教会のそれ(主流カトリック派、異端諸分派、高位聖職者、ユダヤ人、一般信徒)にも注意を払い、どのような対立の原因を探らねばならない。今年度はこのうち、異端弾圧関連のテキストを取り上げ、伝統的な教会内抗争の収拾を目指す教会の思惑と、教会を行政機関としての理解していた皇帝の目的とが一致した点を明らかにしたので、次年度は今年度の遅延分を取り返すことはもちろんのこと、それに加えて、考察対象を帝国の権力中枢における対立関係に定め、皇帝、宮廷・官僚団、そして元老院の相互関係、および元老院の内部事情の詳細を探っていく。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
今年度は必要な機器類を揃えたので、研究費の大半は4-5世紀に成立したキリスト教および異教関連の一次文献の収集に当てるが、作業途中で予定外の文献が必要になることがあるので、この点は慎重を期す。古代文献はできれば電子データとして取得したい。残り(2割程度)は学会・研究会への旅費(必要な場合が生じたら海外)、データ処理(目次・索引作成)のための謝金、それに研究成果を公表するための報告書作成の費用に当てる予定である。
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