2012 Fiscal Year Research-status Report
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23520889
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
保坂 高殿 千葉大学, 文学部, 教授 (30251193)
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Keywords | ローマ帝国とキリスト教 / 国家と教会 |
Research Abstract |
皇帝による教会内抗争への干渉も宗教的動機からではなく教会一致を目指した政治的アクションであり、皇帝はどちらの宗派が教会を主導するかには無関心であったことを、23年度は対異端政策の観点から部分的に示したが、24年度は一方では4世紀におけるキリスト教への改宗の動機を、改宗に直接言及した個々の史料証言からだけではなく、公役負担からの逃避という観点からも分析し、民間においては異教からキリスト教ないしキリスト教から異教という改宗の方向性に関係なく改宗は負担の軽い宗派の方向に向けて頻発して生じたことを示唆できた。 また他方では、民間人のみならず官僚をも考察対象に取り上げ、帝国官僚の人事と当該人物の宗教的帰属との関連性に着目して調査し、4世紀の帝国人事においては宗教的帰属が必要要件として重要であったとするバーンズらの半ば定説化しつつある仮説は4世紀後半以降は妥当するものの、中葉までの時期においては妥当しないことを、プロソポグラフィックな手法を用いて示せることを明らかにした。 両者の見通しを総合的に判断すれば、4世紀後半以降、官僚機構は徐々にキリスト教徒による独占への道のりを辿っていったが、その過程を規定したのは、(宗教性ではなく)教会組織を中心とした体制強化を目指した帝国の権力中枢の意向であり、この権力中枢は前半期には教会を単なる協力相手と見て保護育成はしつつも帝国人事においては教会内の人材不足からキリスト教徒の独占を認めなかったのに対し、後半期以降は積極的にそれを推進した、という展望が得られる。この権力中枢は公役負担の配分も適宜状況変化に対応して変更し、時に教会側の反発を甘受しつつも行政組織としての教会の強化に務めたと暫定的に結論づけられる。これは、本研究課題を策定する際に事前に立てた見通しと合致するものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
初年度のテーマ「各宗派に対する勅令の発令動機の世俗性如何」についてはその史料の量的膨大さゆえに、達成度は7割程度であった。今年度のテーマ、「改宗」および「権力中枢におけるキリスト教徒と異教徒との勢力分布および勢力争いの実態」については最終年度の「帝国統治における教会利用の実態」と併せて取り組んだため、見通しは立ったものの、論文という形で文字化するまでには至っておらず、早急に論文の執筆に着手したい。遅延の原因は何よりも私事に発する時間的余裕の欠如にあった(一昨年(2011年)の実母死去により、民事訴訟(遺言無効確認訴訟)準備のための証拠資料の収集を強いられ、昨年10月に訴状を提出して民事訴訟を提起し、現在も係争中で、終結まであと1年程度かかる)。本訴訟は研究生活の根幹、すなわちその経済的基盤に深く関わる重大な事案であるゆえ、訴訟に必要な時間を削減することはできず、来年度は両事案(課題遂行と訴訟)に時間を等分しなければならない。
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Strategy for Future Research Activity |
研究課題については引き続き、「研究目的」および「研究計画」で箇条書きにした各論点に焦点を当てて史料を精査し、事前に立てた歴史的展望を検証することにより遂行するので、特に課題内容上の変更点はない限り(そして現に、ない)、機械的に作業を継続していけば課題は自動的に終了するが、しかし上記「現在までの達成度」で述べた理由による時間的制約が予想以上に厳しい状況にあるため、対策として補助事業期間延長承認申請を行う可能性が非常に高い。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
今年度はデータ収集に遅れが出ために予定していた収集データの入力を行うことができず「人件費」の支出がなかったこと、および予定していた書籍が一部入手できなかったために物品費の支出額が当初より少なくなったこと、この二つの理由により10万円ほどの残額が出る結果となった。 本課題は人科学研究上の問題を扱うゆえ、次年度研究費は主に資料購入(物品費)、研究会および学会のための旅費および研究成果の編集作業のための人件費に尽き、残額もこれに当てる。したがって、次年度もヨーロッパ古代史関連資料の購入に大半を費やす予定でいる。
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