2013 Fiscal Year Research-status Report
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23520889
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
保坂 高殿 千葉大学, 文学部, 教授 (30251193)
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Keywords | ローマキリスト教 / 国家と教会 / 改宗 / 公役免除 / 都市逃避 |
Research Abstract |
23年度、24年度ともに、教会に対する帝国の積極的関与を宗教的動機ではなく、政治的、行政的および経済的動機から説明するため、4世紀における改宗現象に着目し、一方では4世紀前半の帝国人事における宗教的帰属の非重要性をプロソポグラフィックな手法を用いて示し、他方では、改宗がその方向性(異教からキリスト教へか、キリスト教から異教へか)とは関係なく、公役免除特権の付与状況と深い関連性を有すること、すなわち公役負担の軽い宗派への改宗が一般的であったことを主にテオドシウス法典所収の勅令から示唆することができた。 これを受けて25年度は、改宗動機の非宗教性を裏付ける目的から、帝国内の諸都市における人・モノ・カネの移動の実態を同法典第12巻、第16巻および教父史料を用いて調査し、負担回避のための人の移動が4世紀以降頻繁に文献資料に現れること、そして逃避先として、都市の異教神官職、中央政界(元老院身分取得)、軍隊、属州公職、農村部、他都市、そして何よりも教会(聖職)が挙げられていることを確認することができた。そしてさらに、西暦360年頃を境に二期に分類される教会への逃避(改宗)の、それぞれの時期に見られる特徴も明らかにできた。すなわち、前期は専ら教会への特権が皇帝の側から付与されるゆえの逃避だけであったのに対し、ヨウィアヌス期以降の後期に至っては帝国による教会への監視が厳格化し、資産家も聖職者として迎え入れらたために財産放棄が要求される事態に至り、これが原因で異教への再改宗(出戻り)現象が生じるという逆転現象も生じたのである。これは、法典に言及されている出戻り者からの遺言権剥奪や、教父アンブロシウスが嘆く棄教者輩出、あるいは官職を対価とした異教への改宗運動等、4世紀後半に至って史料に現れる諸現象と内容的に符号する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
現時点で史料調査は全体の7割程度済んでいるが、既に24年度より私事(民事訴訟)による時間的および労力的負担により、調査結果を文字化して論文という形で公表することがでずにいる。また25年度には体調不良による長期療養が加わり、以降投薬を続けて今日に至っている。判決は今年秋頃の見通し、そして体調も徐々に回復してきているため、あと1~2年ぐらいで達成できると予想している。
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Strategy for Future Research Activity |
何よりも、現在まで収集・分析した史料を 1. 4世紀の対異端政策 2.帝国官僚の宗教的帰属3.逃避と改宗 のテーマに分類し、文字化して公表する。最後に挙げた「逃避と改宗」は4世紀末から5世紀初頭にかけての反異教政策の動機・目的を分析する上で重要なテーマであるので、まだ不十分な史料調査を継続して進める必要があり、年内で達成できるかどうか、不透明である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
繰越金が生じた原因は、史料調査の遅れによる文献購入の差し控え、同じ理由によるデータ入力謝金支払の延期、および体調不良による学会・研究会参加の差し控えにある。 研究期間の一年延長が認められたため、上述した文献購入、データ入力謝金および学会・研究会への参加旅費に使用する予定でいる。
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