2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23520893
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Research Institution | Ochanomizu University |
Principal Investigator |
安成 英樹 お茶の水女子大学, 大学院人間文化創成科学研究科, 教授 (60239770)
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Keywords | フランス近世史 / 宮廷 / 官僚制 / 官職売買 |
Research Abstract |
本研究は、フランス近世社会において特異な地位を占めた宮廷社会を分析対象とし、プロソポグラフィーの研究手法を用いて、そこに実際に起居した宮廷役人の集団的特質、社会的政治的な機能について考究するものである。宮廷はしばしば王権の「虚飾」として、空疎で煩瑣な儀礼を繰り返すに過ぎないと論じられてきた。しかしながら、フランス絶対王政の統治構造を研究する上で、これを権威と権力の両側面から捉え直す必要が生じている。実際には様々な役職を振り当てられた貴族たち、あるいはそうした宮廷官職を欲して蝟集した貴族たちが宮廷の実態を形成しているのだが、その人的構成、集団としての性格、党派性など具体的な側面に関しては今なお明らかではない。この複雑極まりない宮廷を総合的に(数量的にかつ質的にも)分析することで、その再評価を試みるものである。 本研究の二年目にである平成24年度は、宮廷関連の諸史料、研究文献の収集を引き続き行うと同時に、それらからえられる宮廷官職保有者層の具体的経歴を広く渉猟した。宮廷の各部署、特に中核的な部署である大膳部と王室部については、かなり具体的な人員配置、および役職者個々人のデータ収集を進めた。ただし、在籍者の氏名、在職年代などはある程度明らかになってきたものの、彼らの社会的地位、出自、前歴およびその後の昇任先、職務内容、資産状態、姻戚関係、パトロナージュなどについては、具体的事例がいくつか判明したものの、集団としての特質を析出するには依然としてデータ不足が否めない。またドイツ、イングランドなどの宮廷との差異といった観点からも調査を進めたい。ニュートンやダ・ヴィーナらの実り多い先行研究を参照しつつ、さらなる宮廷官職保有者の個人情報の収集とその分析を次年度において進める予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度は、前年度に引き続いて宮廷関連文献・諸史料の収集を推し進め、またそれらから判明する宮廷役人の各種個人データの抽出を重点的に行った。ただし、史料上の制約から、必要とするデータ、すなわち出自(家門の古さ)、経歴(前歴およびその後の昇任先、あるいはその有無)、官職購入(あるいは譲渡、世襲)の具体的様相(購入・譲渡の価格、相手を決める経緯・理由など)、職務内容、在任期間、資産状態、有力者との人的ネットワーク、婚姻関係、パトロン=クライアント関係のうち、十分な(有意と見なしうる)計量的分析に必要な数値データがそろった項目は、多いとはいえない状況である。在職者名、前歴、就任年齢、就任期間、姻戚関係などはかなり多く集まっているものの、その他の項目についてはさらにデータの集積を行う必要がある。引き続き各種研究文献やフランス国立図書館(BN)の電子図書館ガリカ所収の、当時の『王国年鑑』Almanach royalといった史料を利用することで、多くのデータを集積したい。
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Strategy for Future Research Activity |
フランス宮廷の構造は、想定した以上に複雑な構造をなしており、なかなか全体像をつかみにくい。その主要な役人ですら名前のみ判明するのみで、どういう人物であるのか、全く不明である場合もしばしばである。したがって、引き続きフランス宮廷制度・組織、その人員に関する諸史料を収集し、分析する。また同時に当時の宮廷役人が書き残した回想録、日記など、今年度十分に考察できなかった史料を併せて利用したい。また、事績のはっきりしている2,3人の人物についてより詳しく分析し、これを他の貴族集団、とくに宮廷貴族とは一線を画するといわれる法服貴族の経歴等と比較することにより、分析の幅を広げたい。24年度には日程の関係で現地での史料収集が行えなかったため、今年度はフランス国立図書館(BN)や古文書館(AN)の所蔵する資史料、またヴェルサイユ等の史跡の調査、また国立図書館の電子図書館ガリカ(Galica)に収録されている諸史料(未刊行ないし入手困難なものについて)を積極的に調査し、活用したい。同時に他のヨーロッパ諸国の宮廷の様態とフランスのそれとの比較を試みたい。こうして得られた知見を元に学会等で研究発表を行い、最終的には学術論文としてまとめる予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度の研究費の支出としては、前年に引き続きフランス、さらにはその他の国の宮廷や国制に関する諸文献・史料の購入に充てられる。その際に宮廷生活の実態を知る有効な手がかりとして、当時の宮廷役人が書き残した回想録、日記などを重点的に収集対象 とすることを想定している。またフランス国立図書館(BN)や古文書館(AN)の所蔵する資史料、また国立図書館の電子図書館ガリカ(Galica)に収録されている諸史料を積極的に調査、活用したい。そのためにパリ近郊へのある程度長い史料調査旅行を実施したいと考えている。これに旅費を充てる。また、収集した資史料の整理、また宮廷役人のデータ入力、整理の作業をこれまでと同様に大学院生等に委託し、これに謝金を支出する。
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