2011 Fiscal Year Research-status Report
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23520896
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Research Institution | University of Yamanashi |
Principal Investigator |
皆川 卓 山梨大学, 教育人間科学部, 准教授 (90456492)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | ミラノ / 帝国イタリア / 国際的封建制 / 帝国宮内法院 / 皇帝総代理 / スペイン・ネットワーク / ローマ法 / ウェストファリア体制 |
Research Abstract |
昨年7月までは、平成19~21年度の基盤研究(C)「近世ヨーロッパの国際的仲裁における比較研究」のうち、当該テーマに関わる研究(ゴンザーガ諸侯国の紛争における神聖ローマ皇帝の裁判権の役割)をまとめ、7月に学習院女子大学で開催された「ルネサンス研究会」で報告した。その後この学会報告における情報交換を元に、スペインとの同君連合(17世紀後半~18世紀)の下、神聖ローマ皇帝の封臣として下級封臣である北イタリア諸侯国に裁判権を及ぼしていたミラノ公国の政治史および制度史に関する国内の文献の調査(主にイタリア語)を行い、その概要及び問題点を整理した。その上で同年10~11月にかけてミラノ大学及びミラノ市立図書館に渡航し、同大学の佐藤公美氏(同大学歴史学博士号取得者)の協力でミラノ公国の貴族史研究に従事するミラノ大学講師レティツィア・アルカンジェリ氏から、当該期ミラノ公国の政治エリートと北イタリア諸侯国との関係について情報を収集した。また同時にミラノ大学図書館および市立図書館で許可を取り、ゴンザーガ諸侯国、マラスピーナ諸侯国等に関する国家間裁判の研究や、ならびにミラノ公国の貴族名鑑をデジタル撮影し、それらにおける皇帝裁判権の行使の実態ならびに裁く側の政治エリートのプロソポグラフィに関するデータベース作成の基礎情報を集めた。特にマラスピーナについては、20世紀初頭のマーニ(Cesare Magni)による大部の研究(800頁程度×3巻)が存在したため、その整理に時間を要した。なお3月には別科研テーマへの協力の一環として京都大学の国際シンポジウムでコメンテータを務めた際、同シンポジウムのパネリストであるミラノ大学教授ジョルジョ・キットリーニ氏から、事前調査をはるかに上回る在ミラノ皇帝総代理の原史料がミラノ国立文書館に存在することを知り、今後の渡航による実地調査で確認、収集する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
基礎情報の収集を目的とした年次であったため、達成されたのは知見の正確な把握と情報の所在の確認が中心である。まず貴族名鑑から皇帝総代理や帝国イタリア担当検察官など、皇帝裁判権の行使に関わったミラノ公国の有力家門(封建貴族・都市貴族)が、16~18世紀の間に皇帝から繰り返し封を受けていたことが確認された。ただし都市貴族と違い封建貴族は、ミラノ公(=スペイン王)や教皇からも封を得ており、今後一定の相対化が必要である。またミラノ有力家門と周辺諸侯との人的ネットワーク(有力家門との婚姻関係や宮廷官職の付与)の存在も確認できたが、ミラノ有力家門に関するプロソポグラフィのデータベースが完成しておらず、裁判事例に関する先行研究も整理し終わっていないため、それが帝国イタリア諸国間の裁判にどの程度影響していたのかは未解明である。史料・文献は予想以上に存在し、紙媒体や取引業者による高額な複写が義務付けられる原史料にまで手が及ばなかった。その一方スペイン同君連合時代のミラノ国制はかなりの程度解明しえた。同国制は基本的にスフォルツァ時代の国制を継承し、スペインから派遣した総督の下でシニョリーアの立法・行政権を行使しつつ、公国のエリートを宮廷に伺候させ、宮廷官職を付与することでその身分を承認し、服従させた。ただしスペイン宮廷を上位の宮廷に位置付け奉仕を求めたところに当該期の特徴がある。このネットワークはミラノ公国を超えて皇帝裁判権が効力を持つ帝国イタリアの諸侯国にも及んだ。従って皇帝裁判権にかかわるエリートの行動要因を理解する場合には、この国際的宮廷ネットワークによるスペインへの帰属意識と、近世イタリアの国家間関係の中で残存していた神聖ローマ皇帝の封臣としての身分の相互関係を解き明かす必要性が生じている。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度に断念した原史料の渉猟、収集およびデータベース化を行う。特に貴族名鑑や官職記録簿からでは十分明らかにしえない神聖ローマ皇帝と帝国イタリア諸国との仲介者に関する情報を原史料から収集し、断片状態のプロソポグラフィを、全体的傾向を捉えうるまでに充実させるのが中心的課題である。そのためには予定通り、近世の皇帝関係の文書を収めるミラノ国立文書館での史料調査が不可欠である。なお皇帝による国家間裁判の中心であるウィーンの帝室宮廷国立文書館の文書は、以前の調査で帝国宮内法院の裁判文書に偏っていることが分かっているが、ミラノにはプロソポグラフィ関係の文書以外にも、キットリーニ教授(ミラノ大学)の教示で、調査や公判段階での文書も所蔵されていることが新たに判明したため、あわせてそれも収集・整理し、裁判事例データベースの補強を行う。しかし同時にスペイン宮廷ネットワークの重要性が浮上してきたため、両者の両立がいかにして維持され、皇帝裁判権を通じて帝国イタリアの維持に関係していたかを解明させる課題が生じている。これについては同様の問題をリグーリア地方の諸侯国について解明したシュネットガー(マインツ大学)の方法論が役立つ。ウェストファリア体制を主権国家併存体制と解釈する英仏の外交史では、近世ヨーロッパ諸国間関係における宮廷ネットワークについてあまり有益な研究はない(そうした解釈に対する批判は近年注目されたばかりである。詳しくは明石欽司『ウェストファリア条約』を参照)が、ウェストファリア体制の定説的解釈に疑問を呈しているドイツの学会では、アレティンやシリングの研究が詳しく論じており、それをベースに来年度の最終結論についての構想を立てる準備に入る。シュネットガーの研究は17世紀中期を境とする自然法的な国制観の台頭が帝国イタリアの性格を変えるという仮説を立てており、これについても配慮する予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度はデータの中心を成すプロソポグラフィ関係の原史料の収集を行うため、当初の計画通りミラノ国立文書館への渡航を予定している。この点について昨年度予定した史料収集の未履行分(裁判関連)があるが、昨年分の史料・文献収集は撮影可能でありコストが生じなかったため、費用を組み替えて三回の渡航を行い、うち一度を翌平成25年度に行う可能性が生じている。ここ数年イタリア政府は欧州統合に伴う情報公開・共有化およびグローバル化を進めており、かつてのような長期の滞在による書写や紙媒体、あるいは契約業者を介した複写を強要することなく、自身でのデジタルカメラによる複写の可能な史料のジャンルを大幅に広げている。16世紀後半以降の史料の少なくとも7割以上はこれに該当すると思われるため、複写費を圧縮し、渡航を短期化して回数を増やすことで、予定したエフォートを効率的に生かすことができるだろう。この方法は、複写に制約のある史料が制約のないそれと混在している史料所蔵状況にも適合的である。他の研究や校務のエフォートを配慮すると、24年度で三度の渡航調査は困難なため、未履行分の史料の収集とプロソポグラフィのための史料収集に向けて夏季に一度渡航し、その史料の範囲内でデータベースを作成した上で、プロソポグラフィの残りの部分のために冬季に再度渡航し、キットリーニ教授からの情報による皇帝総代理関係の史料収集は平成25年度の早い段階に回したい。渡航計画の再編により1回の渡航は短期化するため、24年度の渡航費(2回)は60万円程度、史料複写費は10万円程度で、合計70万円程度となる。なお23年度の繰越金17万円弱に24年度分の残金10万円と25年度申請の研究費を合算すると、25年度の研究費は47万円程度となるが、そのうち25万円程度を1回の渡航に充当する。25年度の文献購入費は当初の計画通り20万円強を予定している。
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