2012 Fiscal Year Research-status Report
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23520897
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
加納 修 名古屋大学, 文学研究科, 准教授 (90376517)
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Keywords | 西洋史 / 中世 / ゲルマン部族国家 |
Research Abstract |
本年度は、ゲルマン国家の宮廷について主として二つの面から研究を行った。第一に、ローマ帝国時代からの変容という観点から、各王国における宮廷官職とその機能ならびに官職担当者について比較を行った。すべての王国においてローマ皇帝の宮廷と比較して家政部門の比重が増大したものの、証明される官職はゲルマン諸国家において相違が見られること、そうした相違が一方でローマの統治組織の残り方や同時代のビザンツ帝国との関係などによって規定されていたことを明らかにした。また官職担当者ならびに官職を担当せずに宮廷で重要な役割を果たした顧問たちについてその出自について調査した。 第二に、フランク王国の宮廷が担うことになった特別な役割、すなわちいくつかの私法行為の確認について関連する史料の詳細な検討を行った。その成果は、「サリカ法典の実効性に関する覚え書き」としてHersetec: Journal of Hermeneutic Study and Education of Textual Configuratio, vol 6. no.1に発表するとともに、2013年3月13日にパリのフランス考古・歴史学協会において、La loi ripuaire et la genese de l'expression "secundum legem Salicam"(「リプアリア法典と「サリカ法にしたがって」とする表現の生成)と題する報告の中で発表した。「サリカ法にしたがって」なされる法律行為の多くは王の面前で行われたが、国王宮廷がこうした役割を引き継ぐことになった経緯を、ローマ法とフランク法の融合プロセスの中にあることを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成23年度にゲルマン部族国家の宮廷について、首都や滞在地の選択や地誌的・空間的特徴についての調査を行ったのち、24年度は各王国における宮廷官職とその機能、担当者の出自や民族帰属についての調査を、一方で比較史の観点から、他方で古代ローマ末期からの変化を考慮に入れながら進めることができた。これによって、宮廷の空間的特徴と人的特徴について、ゲルマン諸国家の共通性と相違をある程度まで浮き彫りにすることができた。これら共通性の多くは、ゲルマン人に共通の慣習によるのではなく、ローマ帝国末期の社会からの連続性の中で説明することができることが明らかになった。また、王国統治における宮廷の役割についても、フランク王国においてのみ私法行為の確認が行われることになった歴史的な背景を解明し、王国の法的状況が宮廷の役割と密接に関わっていることを示すことができた。宮廷の役割という面でも、各王国間の主要な相違はローマ帝国の遺産の継承の仕方から説明できることも明らかになった。 以上の成果については、その一部についてしか公表する機会を得なかったが、研究そのものはおおむね順調に進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度への繰越金が1万5千円ほど生じたのは、購入を予定していた古代末期・中世初期ヨーロッパ史に関する文献の価格が残額を上回りそうであったからである。 次年度は、ゲルマン部族国家の宮廷官職について、フランク王国を中心としながらも、西ゴート王国、ブルグンド王国、ランゴバルド王国など他の王国の宮廷と比較しながら、引き続き調査を行う。とりわけ、平成24年度において一部しか調査することができなかった官職担当者の詳しいデータの収集と整理を行う。また、ゲルマン諸国家の宮廷の共通性と相違の意義をより明確にするとともに、王国統治における宮廷の意義についても比較の観点から検討を続ける。かくして得られた知見を総合し、中世初期ゲルマン諸国家の宮廷構造の独自性という観点に基づいて、ヨーロッパ中世世界の形成を捉え直す。そして得られた成果を雑誌等に投稿するとともに、学会で発表する予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度の研究費は主として次の二つにあてる。第一に、物品費すなわちゲルマン部族国家関連の史料や研究文献の購入である。購入の困難な文献については、日本の大学に所蔵されている場合、図書館相互貸借サービスを通じて借り出すか、あるいは貴重図書の場合には、所蔵する図書館に赴いて必要部分を閲覧する。 第二に、研究成果の発表のための研究打合せや学会報告である。現時点で確定しているのは、6月22日、23日に中央大学多摩キャンパスで開催される第5回西洋中世学会大会における報告であり、シンポジウム「中世における「ローマ」」において成果を発表する予定である。
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Research Products
(4 results)