2012 Fiscal Year Research-status Report
中世イタリア都市支配層の「貴族」アイデンティティ―14世紀ヴェネツィアを中心に
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23520898
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
高田 京比子 神戸大学, 人文学研究科, 准教授 (40283668)
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Keywords | 中世イタリア / 貴族 |
Research Abstract |
本年度は中世イタリア都市において、貴族・騎士と呼ばれた人々についての今までの研究をまとめた。20世紀のイタリア本国における当該問題についての認識は、「13世紀の平民勢力の台頭にもかかわらず貴族層nobiles(土地領主と古いコンソリ貴族の家からなる階層)は14世紀も文化的に継続し続けた」というものであった。貴族と都市世界におけるその政治的役割を明らかにする研究が蓄積し、支配層は物理的に交代したとしても、旧支配層の振る舞いのコードは新興勢力の上にも影響力を及ぼし、平民層の上層と旧支配層は徐々に近づき融合してあらたな支配層が形成されるという図式が説得力を持って受け入れられたのである。しかし21世紀になってから、このような図式は揺るがせられる。平民文化の革新性、すなわち政治を議会や委員会、司法手続き等委託された制度の次元で進めていこうとする文化、武力や私的仲裁に重きを置く旧支配層の文化とは異なる文化が13世紀の平民勢力の登場とともに飛躍的に発展したことが評価されるようになり、13世紀後半から14世紀前半にかけてのイタリア都市では、旧来の貴族の文化は徐々に弱くなり制度が強化されていくという見取り図が支配的になったのである。このような見方に従えば、14世紀の貴族はもはや13世紀の貴族とは価値観も振る舞いのコードも異なる新たな階層と言うことになろう。しかし旧来の貴族の文化的コードと、新たに強化された制度の文化の相互作用は十分明らかにされているとはいえない。この点をヴェネツィアをフィールドに、史料に基づいて実証的に明らかにすることを次年度の課題としたい。 なおこの成果をもとにして、昨年3月に行ったキットリーニ講演に対するコメントの口頭発表を、英文原稿にまとめた。すでに入校済みであり、イタリアのヴィエラ社から出版予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
13世紀のヴェネツィア貴族が他のイタリア都市の貴族と共通の貴族文化(騎馬による武勇、私的仲裁、名誉の概念等)に連なることを史料にもとづいて明らかにし、論文にする予定であったが、新たな論文・研究状況の探索によって、20世紀に支配的であった貴族文化の継続の視点が21世紀になってから乗り越えられていることを知り、より変化に配慮した視点が必要であることに気づいたため。また他の研究課題に思いのほか時間が取られたこともある。ただし、それらの研究を通して、ヴェネツィアとヴェネト地方の結びつきの強さを改めて確認し、ヴェネツィア貴族の経験を広く北中部イタリア都市の支配層の変遷の中に正しく位置づける視点が得ることができたので、次年度は遅れを取り戻すことができると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
まず昨年度活字にできなかった、13世紀ヴェネツィア貴族と騎士文化のかかわりについて論文にまとめる。さらに、13世紀から14世紀にかけてのイタリア都市の一般的変化の流れの中で、ヴェネツィア貴族の貴族としてのアイデンティティの所在がどのように変わっていったのか、年代記と法令史料を参考にまとめる。年代記についてはヴェネツィアのものはすでに入手済みであり、法令史料についても刊行部分は目を通しているので、9月にイタリアに赴いた際、古文書館で該当部分の未刊行部分を確認する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
ヴェネツィア貴族について情報を与えてくれる年代記はヴェネツィアのものには限らない。なぜなら13世紀からヴェネツィアはイタリア諸都市とも戦争をし、仲裁もし、従来考えられてきたよりも多く帆区中部イタリアの政治情勢に関わっているからである。したがって、他都市の年代記史料を集める必要がある。 9月にはイタリアに赴き、ヴェネツィアの古文書館で資料調査を行う。 また8月のイタリア中近世史の合宿で、研究成果を報告し、他の人々の意見を聞く。
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