2013 Fiscal Year Research-status Report
中世イタリア都市支配層の「貴族」アイデンティティ―14世紀ヴェネツィアを中心に
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23520898
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
高田 京比子 神戸大学, 人文学研究科, 准教授 (40283668)
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Keywords | 貴族 / 騎士 / ヴェネツィア / イタリア |
Research Abstract |
イタリアの騎士についての研究史をまとめた。サルヴェミニからカルディーニ、タバッコ、ガスパリ、メール・ヴィギュールに至る研究の流れを概観し、封建的主従関係や騎士叙任に関わりなく、都市のために馬に乗って戦う階層がイタリアの騎士であること、彼らに共通の文化は騎馬槍試合や狩猟等の「騎士的遊び」に加えて、親族等の私的紐帯を基盤に武器と法を利用して紛争と和解を繰り返す紛争文化であると主張されていることを確認した。 このようなイタリアの騎士とヴェネツィア支配層の接点を確認すべく、いくつかの研究でヴェネツィアと騎士の関係を示すとされている史料を再検討した。その結果、たとえ陸戦よりは海戦に長け、馬を用いることが少ないとしても、彼らにも騎士的遊戯や馬での戦いに加わる機会はあり、「政治的・軍事的エリート」としての一体感はヴェネツィアの支配層にも当てはまるのではないかという結論を得た。 ヴェネツィア支配層については、セッラータ以前は貿易活動による富の蓄積と政府の要職に就くという政治的経験が事実上の貴族となる条件であり、セッラータ後は大議会の成員である家系に属することが貴族身分に属するための指標であるとされてきた。確かにそれは間違いではないが、今までヴェネツィア支配層について好んで研究されてきた家系の連続や個々の家の台頭の様子など物理的な側面ではなく、当時の人々がどのような人々が「高貴」であり、また政府の要職に就く資格があると考えていたのか、彼らの一体性がどこに求められるのかという問題については、より幅広く、同時代の他のイタリア諸都市との関係の中で考える必要があるだろう。次は14世紀の年代記を中心に、彼らの貴族意識を探って行く予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
他の科研の分担者となっており、そちらの研究に時間を取られたため。 また、14世紀のヴェネツィア貴族アイデンティティを他都市の研究状況との関連において調査するため、他のイタリア都市の研究状況を勉強していたところ、昨今14世紀については都市内部の統治技法の問題を中心にかなり豊かな研究成果が発信されており、それを消化するのに時間がかかったため。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の予定通り、14世紀のヴェネツィアの年代記を中心に史料を読み込んで、彼らの貴族意識を探って行く。その際、昨今の研究によると、14世紀はさまざまな統治技法の進展の中でより「国家的なもの」が登場してくる時代に当たるので、それと貴族意識・家系意識がどのように絡み合って行くのか、その点に注意する。また「貴族意識」や「エリート層」の継続だけでは、13世紀から14世紀の変化はとらえられないという見解が昨今の流れであり、制度や統治技法や統治理念の進展がこの時代をとらえるキーワードとして注目されてきているので、その中で貴族意識がどのようにヴェネツィアで育って行くかについてはより注意深い考察が必要である。
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