2011 Fiscal Year Research-status Report
イギリス福祉史におけるボランタリ・アクションの連続性
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23520904
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Research Institution | Shimonoseki City University |
Principal Investigator |
高田 実 下関市立大学, 経済学部, 教授 (70216662)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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Keywords | 救援ギルド / 新しいチャリティ / エルヴァーフェルト制度 / 福祉の複合体 |
Research Abstract |
今年度の課題は、20世紀初頭のイギリスのチャリティと国家との関連について、ブラッドフォードを中心として展開する「救援ギルド」(Guild of Help、1904年設立)を具体的な対象とし、その基本的は事実経過を把握した後で、「新しいチャリティ」と国家との関係について、どのような主張がなされていたのかを、「福祉の複合体」の視点から明らかにしようとした。以下のような成果を得た。 (1)基本的な事実の再確認:数少ない研究史を改めて精査し、設立と活動についての基本的な事実を再整理することができた。その点でとりたてて大きな発見はなかったが、これまでの研究の達成点と資料的な制約について、改めて確認できた。(2)地方自治体の役割の大きさ:当初の計画では、チャリティと国家の関係にばかり目がいっていたが、ロンドンでの現地調査を踏まえると、地方自治体の役割により大きな期待がかけれらていることを改めて認識することができた。(3)主教者の役割:それと関連して、地域のなかで政治的立場を超えた人的ネットワークの重層的なつながりが大きな役割を果たしていることを再認識できた。社会活動家や政治家の役割については当初から予想していたが、予想以上に宗教者の役割が大きかった。(4)国際的連関の重要性:救援ギルドのモデルはドイツのエルバーフェルト制度に求められていることは従来から主張されていたが、一次資料を見て再度そのことの意味の大きさについて考えさせられた。当時はドイツとの帝国主義的な対立が激化し始めていた時期ではあるが、そのライバルの救貧制度が、イギリスの地域的な再生の一つのモデルとされていたことの意味、社会問題の共時的な課題と対応策をめぐる国際連関について、一国史では見落とされがちな歴史的意義を理解することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
当初の計画から大幅に遅れている。その理由は以下の3点にある。(1)論文執筆の遅れ:当初計画では全国学会誌に論文を寄稿する予定であったが、それがまったくできなかった。上記のような興味深い発見はあるものの、それを救援ギルドそのものに即した論文としてまとめることができないままでいる。もちろん、長期間の福祉史を扱った概説的な論考のなかで、今回の研究成果の一部をもちいてはいるが、単独の論文として発表できていない点は大きな問題である。(2)学会発表の欠如:当初計画では、全国学会での発表を予定していたが、それが果たせなかった。(1)と同様の理由で、救援グルドそのものの史実の整理だけで、一つの報告ができるかどうか、再度検討が必要なところにある。(3)エフォート度の再調整:学内の通常業務、学内行政の仕事で、予想以上に時間をとられてしまい、予定通りのエフォート度を科研費研究にあてることができなかった。大きな反省点である。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)昨年度の遅れの改善策:まず今年度は、昨年度の遅れを取り戻すべく、救援ギルドを中心とした「新しいチャリティ」の論文を執筆しるとともに、学会、研究会での報告を行う。すでに7月の福祉社会研究会での報告は決まっているので、ここでは少し大きな問題関心での報告を行い、秋の全国学会のどこかで自由論題報告を行う予定である。(2)1909年救貧法調査王立委員会の報告書・証言録分析:これも昨年度の課題であったが、十分に果たせなかったところである。1909年の王立委員会報告書と関連資料における「新しいチャリティ」側の主張を、改めて整理し、(1)の論文、学会発表に反映させる。この(1)と(2)については、基本的に夏休み前までに終わりたい。(3)今年固有の課題としては、「社会サービス全国協議会」(1919年設立)の分析を予定していたが、昨年度の遅れから、それそのものを分析するのは少し後に伸ばし、ローカルな世界で「社会サービス」の地方組織が成立し、活動する様子を、救援ギルドとの連携を意識しつつ分析する。(4)主な調査方法は、イギリスの各地で発行された雑誌、パンフレットなどをできれうだけ効率的に調査し、整理することである。時間的に各地のアーカイブを回る余裕はないので、ロンドンの図書館で集めることができる資料をベースとする。(3)(4)については、基本的に夏休みの相対的に時間がとれる時間の課題としたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
基本的には昨年と同様に、関連文献の購入、現地調査旅費(海外)、成果発表のための旅費(国内)の三本柱である。金額的にも、ほぼ昨年並みの支出になる。これに、論文執筆のための若干の消耗品代とデータ整理にともなう謝金の費用が加わるかもしれない また、昨年度の予算から今年度に持ち越した部分については、基本的には書籍・資料の収集代に充てる予定である。
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