2012 Fiscal Year Research-status Report
イギリス福祉史におけるボランタリ・アクションの連続性
Project/Area Number |
23520904
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Research Institution | Shimonoseki City University |
Principal Investigator |
高田 実 下関市立大学, 経済学部, 教授 (70216662)
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Keywords | 救援ギルド / 社会サービス協議会 / 新しいチャリティ / 福祉の複合体 / イギリス史 |
Research Abstract |
当該年度前半期には、救援ギルドの基本的活動について、イギリス議会資料、同時代のパンフレットを中心に分析し、その成果を政治経済学・経済史学会秋季大会(慶應義塾大学。2012年11月)、九州歴史科学研究会(西南学院大学、同年12月)で報告した。 この調査によって以下のことが明らかとなった。ブラッドフォード市を中心とした84都市で、第一次大戦前に地方救援ギルドが形成され、官民が融合した地方の「新しいチャリティ」が成立した。「施しではなく友人を」を合言葉に、個々の困窮者の生活実態に応じた「ヘルパー」による自立支援を行っていたことが明らかになった。地域内の貧民支援の登録による重複の回避、友愛訪問による適切な施設紹介と方策の助言が基本であった。この支援の根底には、「金銭ではなく頭脳を」という言葉に表されるように、直接的給付よりも、被支援者が「自立」することが主要な目的とされていた。 実際のサービスでは、救貧関係が最も多かったが、健康・衛生、教育など、対象とする家庭に最もふさわしい支援が施された。その際、救貧法組織、医務官・衛生当局、学務委員会と積極的な協調を図った。これによって、地域における官民の貧民支援組織の連携がはかられ、地域の福祉の複合体の有機化が進行した。官民の福祉業務の連携が、民間組織の主導により、イデオロギー的立場を超えて追求されたことは特筆に値する。実際に当時は「コミュニティの精神」が強調され、シティズンシップの実践が求められた。 大戦後になると、このような業務は「社会サービス」、また支援者は「ソーシャル・ワーカー」という言葉で表現されるようになる。組織的にも地域をベースとしつつも、それらが全国的に連携するようになる。1919年の社会サービス全国協議会の成立はこれを端的に表現するものであった。こうしたボランタリ活動はこの後も長く続き、イギリスの現代的福祉の中核をなした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
1 救援ギルド、社会サービス全国協議会という中心的対象となる二つの団体についての調査は進行し、全国学会で報告するレベルには達しているが、まだ活字として報告していない。 2 内容的にみると、研究の独創性を示すだけの質にまで達していない。ひとつには、他の研究者が用いていないよりオリジナルな同時代資料をもう少し見つけること、始点として「福祉の複合体」をもっと明確に表すような総括方法を模索すべきこと、この2点が克服課題である。
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Strategy for Future Research Activity |
1 次年度は、何よりもこれまでの遅れを取り戻すだけの研究成果の発表を行いたい。救援ギルド、社会サービス全国協議会、それぞれについて、論文1本、研究ノート1本は書けるように努力する。 2 夏休みの現地調査は、主にこうした論文作成のための補完的資料を中心に行いたい。また、英国の研究者から情報を得て、より質の高い論文の完成をめざしたい。 3 論文の執筆に当たっては、研究全体の計画の最後に書籍の刊行ができるように、既発表の研究との連携を意識する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
1 主として、上記2団体に関連するような同時代資料の購入あるいはコピーの入手のために、研究費を使う。日本国内、あるいは刊行物ではどうしてもオリジナルな資料が手に入りにくいので、英国現地での複写費用が多くなる予定である。この目的を達成するための渡英費用、滞在費用、さらに英国内での交通費が金額としては大きく計上される予定である。 3 また、国内のイギリス議会資料を閲覧するための国内旅費と上記同様の複写費用がある程度必要になる。また、全国学会発表のための費用を1回分計上する。
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