2013 Fiscal Year Research-status Report
イギリス福祉史におけるボランタリ・アクションの連続性
Project/Area Number |
23520904
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Research Institution | Shimonoseki City University |
Principal Investigator |
高田 実 下関市立大学, 経済学部, 教授 (70216662)
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Keywords | ヴォランタリズム / イギリス的自由 / 福祉の複合体 / 社会有機体 / よき社会 / 社会サービス |
Research Abstract |
今年度は本来であれば1919年成立の社会サービス全国協議会の活動について、論文を書く予定であったが、その課題を果たせていない。また、イギリスのアーカイブにおける現地調査も行うことができなかった。そのためプロジェクトの課題追究に関しては、大きな停滞をきたしている。 結果的には、今年度は二つの作業をおこなった。(1)ひとつは、近現代のイギリス社会に一貫して流れる底流としてのヴォランタリズムの力強さを、イギリスの第二次文献を用いながら長期的な視点から再確認する作業である。この作業により、名誉革命以降のイギリス近代社会では、絶対王政の打倒によってできた「自由のアリーナ」において、民間の自発的団体が、「よき社会」を目指して活発に活動することによって、「自由」が文字通り実質化していったこと、また、そうした自発的な活動を促進するために、国家が法の整備を通じてこの「自由のアリーナ」を維持するための積極的な干渉を行い続けてきたこと、さらに1880年代以降このシステムが機能不全に陥り再編を迫られていたことを明らかにした。とりわけ、この再編期には、国家と社会の有機的連携がもとめられ、そこではジョン・ラスキンの社会再編論が大きな影響を与えていた。この成果は、二つの学会報告に表れている。 (2)もう一つの作業として、社会サービス全国協議会が登場する背景として、大戦中におけるイギリス社会の変化を検討した。そこでは、19世紀末の社会再編期に称揚された「生なくして富は存在しない」というラスキンの有機的な社会再編構想が忘れられ、次第に国家主導の官僚的で、無機質な社会変革論に取って代わられる過程を明らかにした。「社会的なるもの」が国家によって簒奪されるようになり、イギリス社会の行政国家化が進んだ。その成果は、書評と「生の歴史と第一次世界大戦」『歴史と経済』(2014年7月刊予定)として一部公表している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
大きな遅れが生じている。その理由として以下の点を挙げることができる。 (1)本プロジェクトに対象となる、救援ギルド、社会サービス協議会のそれ自体の第一次資料の確認が極めて不十分であり、断片的な資料しか入手できていない。しかも、それらの資料は、これまでの研究でも使われているものであるため、オリジナリティを発揮できる資料の発掘が不可欠である。とりわけ、地方における資料を入手することが可能かどうか、そこについての見通しができていない。 (2)これまで第一次世界大戦前の研究を主に行っていたが、やはり大戦そのものがイギリス社会に与えた影響が極めて大きいことについて、認識の不足があった。そのため、大戦前と大戦後の連続性と断続性の関係について十分なイメージをもてないままであったが、今年度の準備作業はある程度効果があったので、今後、この準備作業をいかして、主テーマに集中した考察が望まれる。 (3)大学内の重要な役職に就いていたことと、私的状況の変化があり、本プロジェクトに年度初めに予定していたほどの時間を割くことができなかった。当初の計画が甘かった。エフォート度の比率を見直しながら、研究計画の再検討が必要となっている。また、これと関連して、単純な作業については、アルバイトなどを用いた補助作業委託も考えなければならない。
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Strategy for Future Research Activity |
来年度は最終年度であり、何としても成果を形にして発表しなくてはならない。来年度中に書物として刊行するのは難しいが、その基礎となる論文を複数発表しなくてはならない。それに向けて、以下のような、研究計画の再編が求められる。 (1)5月~7月 1909年救貧法・貧困対策調査王立委員会のついての研究成果を活字化する。一昨年の学会報告などを参照しつつ、論文を投稿する。 (2)8月中旬から下旬 イギリスにおける現地調査。これまでの調査で不足している点を明確にしつつ、論文執筆に必要な資料を集中的に収集する。 (3)9月~11月 救援ギルドについての論文を執筆する。これについては、基本的資料は入手しているものの、対抗組織としての慈善組織委員会の資料と突き合わせることが求められるので、その検討を加えつつ、論文を執筆する。 (4)12月~2015年2月 社会サービス全国協議会について、できれば論文を、難しいようであれば研究ノートを執筆する。特に、1948年のベヴァリッジ著『ヴォランタリー・アクション』につながる道筋だけは示さないと、本研究テーマ全体に対する答えをだすことができないので、その点を強く意識する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
(1)物品費について、研究対象となる団体の機関誌の資料をマイクロフィルムで入手する予定であったが、それができないことがわかったため、その分に予定していた費用が未使用となっている。(2)夏季に予定していたイギリスでの現地調査を実施できなかったため、それに関する予算がそのまま未使用として残されている。(3)上記の英国滞在中に必要となると想定していた複写費が未使用のまま、残っている。 (1)今年度に購入予定であったマイクロフィルムに代わる資料を見つけて、購入する予定である。現在のとこと、慈善組織教会の資料を入手する予定にしている。(2)昨年度実施できなかった現地調査を含めて、ことしは2回のイギリスでの調査を行う予定にしており、そのための海外旅費が必要となる。また、秋以降、いくつかの学会で研究成果の発表を行うつもりでいるので、そのための国内旅費が必要である。(3)上記のイギリスでの調査に関連して、複写代が必要になる。
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