2014 Fiscal Year Research-status Report
イギリス福祉史におけるボランタリ・アクションの連続性
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23520904
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Research Institution | Konan University |
Principal Investigator |
高田 実 甲南大学, 文学部, 教授 (70216662)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2016-03-31
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Keywords | 福祉の複合体 / ソーシャルサービス / 福祉史 / イギリス / 第一次世界大戦 / ボランタリズム / 救援ギルド / 社会サービス全国協議会 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、一方で、「生の歴史学」という視点から、第一次世界大戦前後を対象とする歴史研究のサーベイと新しい研究方法の論点を、他方で、救援ギルドについての実証研究をまとめた。 前者においては、これまでの福祉史研究においては、金銭的・物的な生活保障が中心となっており、対人サービス、ケアについての研究が大きく遅れていることに鑑み、その歴史研究を進めるために重要な論点を整理した。特に、対人サービスは、本科研費研究が対象とする「ボランタリー・アクション」によって担われることが多かったため、その歴史研究を進めるうえで、人間の「生」(「生存」ではなく)という視点が大事となることを、近年のケア論、生存論の成果(理論)と、歴史研究の成果(実証)の両面を統合する形で主張した。また、時期としては、本課題研究が対象とする、第一次世界大戦前後、特に20年代の重要性を強調した。 後者では、救援ギルドの基本的活動と、その同時代的意義を、一次資料の分析をもとにして実証的に明らかにした。とりわけ、歴史的意義については、従来言われてきた「新しいフィランスロピー」(国家福祉と協調関係をもった慈善活動)としての側面だけでなく、エルバーフェルト制度への共時的な国際的注目という歴史の文脈の中に位置づけた。 より総括的には、19世紀末から20世紀初頭における「社会都市」段階の地方の福祉の根本的再編を前提に、20世紀初頭に国家福祉が導入されること、さらにその国家福祉の導入を前提に、第一次世界大戦時に、総力戦体制が確立することにともなって、いわゆる「社会国家」(福祉国家)が成立することが展望できた。その際、この「社会国家」とは、単に国家福祉だけの拡大を意味するのではなく、民間福祉、地方の福祉の総体を合わせた「福祉の複合体」全体、つまり、官・民、協(ボランタリズム)・私の混合体全体の再編を意味することを強調した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
救援ギルドについての研究はかなり進めることができたが、社会サービス全国協議会については、現地における資料調査が進展しておらず、論文執筆にいたっていない。特に,同協議会の機関誌である“Social Service Review"や農村向け機関誌“Village"など、近年所蔵が明らかになってきた資料について十分な現地調査ができていないところに最大の問題がある。まずは、これらの資料についての調査を着実に行い、それに基づく学会報告を行わなければならないが、それが達成できていない。 これに加えて、昨年度当初に予定していた『救貧法・貧民救済調査王立委員会報告書』(1909年)及び付属資料についても、十分な分析ができていないし、その成果を文字化できていない。 一定の調査は行い、ある程度の構想を得てはいるものの、その成果をきちんとした刊行物としてまとめる段階に至っていない。成果のとりまとめという点において、大きな遅れが生じている点については、根本的な反省と計画の再検討が必要である。
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Strategy for Future Research Activity |
まずは、現地調査を必要としない研究について、夏休み前までに論文の執筆を行う。具体的には、日本国内に所蔵する上記の『救貧法・貧民救済調査王立委員会報告書』(1909年)及び付属資料を用いた論文の作成を行う。 次に、夏休みには、社会サービス全国協議会の機関誌“Social Service Revew”や、農村向け機関誌“Village"など、同協議会の発行物について、イギリスのアーカイブにおいて現地調査を行い、その内容を精査する。これに関する費用については、別記のように資金の一部の使用延期を申請し、承認を得たので、それを用いる。この現地調査を踏まえて、その後可及的速やかに社会サービス全国協議会についての本格的な論文執筆を行う。 今年度の最後には、この間の研究全体をまとめるような論文執筆を行ったうえで、著作の作成に向かいたい。時間的に期限内に書物を刊行することは難しいかもしれないが、秋に全国学会での成果発表を行ったうえで、冬には書物の草稿づくりに着手し、できるだけ年度内に書物の基本的部分についての原稿を揃えられるように努力したい。
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Causes of Carryover |
当初の計画では、救援ギルドと社会サービス全国協議会の二つの団体を中心に研究を進め、両者についての分析を統合して、所期の目的を達成する予定であった。前者の団体については、予定通りに研究が進展し、現地調査と学会発表を終えたが、後者の団体については、前述のように研究の過程で新しい資料の存在が明らかになり、当初の研究計画を若干変更して、追加資料を検討したうえで、より水準の高い研究とすることが必要となったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
基本的には、残額のほとんどを、イギリスのアーカイブでの現地調査分の渡航費用・滞在費用・複写費用として使うために残している。学務との関係で、渡航可能な時期を調整したうえで、社会サービス全国協議会に関係する新しい資料について、2週間程度の現地調査を行なう予定である。
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