2015 Fiscal Year Annual Research Report
イギリス福祉史におけるボランタリ・アクションの連続性
Project/Area Number |
23520904
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Research Institution | Konan University |
Principal Investigator |
高田 実 甲南大学, 文学部, 教授 (70216662)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2016-03-31
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Keywords | 社会サービス / 福祉の複合体 / 新しいフィランスロピー / ボランタリ・アクション / 救援ギルド / 社会サービス協議会 / 知性史 / 理想主義 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、主に二つの面で研究活動を進めた。一方で、1919年5月にイギリスで「社会サービス全国協議会」が成立するまでの過程とその初期の活動を分析し、論文として発表した。他方では、上記の社会サービス全国協議会や前年度対象とした救援ギルドを総称する「新しいフィランスロピー」という福祉のボランタリ・アクションを、「生の歴史学」というより広い研究視点から位置づけるための研究会報告を行なった。 前者では、まず、救援ギルドの活動などの地方における福祉資源統合の試み、自由党の社会改革の実現、第一次世界大戦の影響、この3点が歴史的前提として重要なことを確認した。ついで、初期の活動として、1920年4月オックフォード大学ベリオール・カレッジで開催された全国会議での議論に焦点を当てた分析を行い、理想主義の影響の大きさを確認した。最後に、以上の分析と前年度までの研究を合わせて、第一次世界大戦後における「福祉の複合体」の質的転換を歴史的意味を議論した。 後者については、「福祉」という狭い枠組みではなく、人の生に不可欠な「社会」という共同性の網の目を再建しようとする知的トレンドが当時非常に大きな影響力をもっていたことを、ジョン・ラスキンや、トマス・ヒル・グリーン(理想主義)を例にとりつつ、強調した。また、その知的潮流がドイツと違ってファシズムの方向に向かわなかったのはなぜかも、比較史的に検討した。 以上、「福祉の複合体」の構造転換と社会改革の知性史を意識することによって、従来の福祉の制度史という狭い視点を克服し、ボランタリ・アクションの連続性から福祉史を見直すための新しい方法を問題提起した。ただ、方法的な問題提起の大きさに比して、実証的な精緻さという点で今後に課題を残した。さらなる検討が必要である。
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