2013 Fiscal Year Annual Research Report
16世紀前半の聖地巡礼記に見る十字軍観・ムスリム観・イスラーム観の変容
Project/Area Number |
23520905
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Research Institution | Tohoku Gakuin University |
Principal Investigator |
櫻井 康人 東北学院大学, 文学部, 教授 (60382652)
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Keywords | 西洋史 / 十字軍史 / 聖地巡礼史 |
Research Abstract |
研究代表者は、これまでに十字軍の全体像を理解するための一環として、いわゆる「後期十字軍」(14世紀以降の十字軍)の実態を解明するために、15世紀までの聖地巡礼記に着目して研究を行ってきた。本研究では、これまでの成果をさらに深化・発展させるために、16世紀前半に作成された聖地巡礼記から十字軍観およびイスラーム観を探ることを目的としてきた。考察の結果は、主題に即したもので2本、付随的なもので1本の論文、およびそれぞれ1回ずつの学会発表というかたちで公にすることができたが、その概要は以下の通りである。 マムルーク朝末期からオスマン帝国初期にかけては、聖地周辺域の無秩序状態ゆえに多くの聖地巡礼者は多くの苦難を経験し、それが彼らの中に反ムスリム感情および「十字軍」の希望を醸造させた。しかし、1530年代に入りオスマン帝国による聖地周辺域の支配が安定化傾向を見せるに及んで、巡礼者たちは護衛者としての「トルコ人」に感謝の意を表するようになった。ただし、それは必ずしも彼らの中から反「トルコ人」感情を払拭するには至らず、反キリスト教としてのイスラーム信仰における主役もまた「トルコ人」となった。聖地巡礼という経験を通じて反「トルコ人」感情も醸造させた巡礼者たちは、過去の「十字軍」ではなく、その感情を接着剤として聖地回復の希望=聖地の現状からの救出と「十字軍」の希望を接合させていったのである。 このようにして導かれた「十字軍」像は、概して「十字軍運動」の連続性を強調しがちである従来の見解とは異なり、16世紀に大きな転換点を迎えたものであったと解釈することを可能とする。従って、本研究で得られた成果は、十字軍史研究分野のみならず、ヨーロッパとオスマン帝国との関係を考える上でも重要な問題提起をなしていると言えよう。
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