2011 Fiscal Year Research-status Report
イランにおけるアレクサンドロス遠征の経路と実態に関する歴史学的地誌学的研究
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23520908
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Research Institution | Teikyo University |
Principal Investigator |
森谷 公俊 帝京大学, 文学部, 教授 (60183662)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | アレクサンドロス / マケドニア / アケメネス朝ペルシア / ペルセポリス |
Research Abstract |
アレクサンドロス大王が前331年12月末から前330年1月末にかけて、ペルシア帝国の首都スーサからペルセポリスに侵攻した経路を、古典史料の精査と現地調査の両面から研究した。その結果、これまでの通説は誤りであり、スペック教授の新説がおおむね正しいことを証明することができた。 まず二つの説を比較検討しながら古典史料を詳細に検討して、論点を明らかにした。次いで研究協力者とともにイランで実地調査を行ない、約2週間にわたってザグロス山中を連日タクシーで走破し、調査ポイントを歩いた。その結果、(1)山岳民族ウクシオイ人との交戦地点については、スーサの東、ザグロス山脈の入口に、史料と完全に符合する地形を見出した。(2)アレクサンドロスがペルシア防衛軍を撃破したペルシア門については、通説によるファーリアン渓谷は史料と一致せず、ここでの戦闘は不可能であること、スペック説によるメーリアン渓谷は史料の記述と完全に一致することを発見した。これにより、遠征軍の経路は、通説の想定する南寄りの経路ではなく、スペックの想定する北寄りの経路であることが証明できた。 以上の検証をふまえて、ペルシア門での戦闘をアケメネス朝側からの視点によって再構成し、これをアケメネス朝最後の戦いとして評価しなおすことができる。なおアレクサンドロスが敢えて真冬のザグロス山脈を踏破した理由については、(1)補給上の理由から兵力を分散させる必要があったこと、(2)将兵の略奪欲を満たすためにペルセポリス占領を急がねばならなかったこと、の2点があげられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
古典史料と照合しながら2つの説を比較検討するという作業は全く問題なく終了した。現地調査についてはさまざまな困難が予想されたが、現地イラン人はおおむね協力的で、連日のタクシーによる走破に問題はなかった。ウクシオイ人との交戦地点はスペック教授も訪問したことがなく、まったく新しい発見であった。またペルシア門の特定が疑問の余地なく遂行できたことも貴重な成果である。 その反面、現地の特殊事情から、調査できなかった地点も若干残された。またペルシア門におけるマケドニア軍の迂回路の検証にはトレッキングが必要であり、今回は準備不足のため断念した。 以上により、全体としておおむね順調に課題を遂行できたと評価することができる。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度やり残した課題を、次年度の計画に付け加えて遂行する。すなわちペルシア門における遠征軍の迂回路を特定して、ペルシア門における戦闘の再構成をより完全なものとする。また平野部のベーヘバハーンからザグロス山脈に入り、スペック説によるスシア門を通過する経路を実際に走破して、スシア門に関するスペック説の当否を検証する。これらの検証をふまえてスペック説を修正し、ペルセポリスに至るアレクサンドロスの遠征経路を独自に再構成する。 以上と合わせて、2年目の計画であるダレイオス追撃に関する史料の精査と実地調査を遂行する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究費の大半は、研究協力者とともに行うイランでの実地調査に費やされる。まず今年度にやり残した課題を遂行するため、ザグロス山脈を再び訪れ、メーリアン渓谷の裏山をトレッキングして大王軍の迂回路を実証する。また通説によるウクシオイ人との交戦地点であるコタリ・サンガルを実見し、通説が誤りであることを証明する。 次にエルブルズ山脈南麓を東に向かい、ペルシア王ダレイオス3世に対するアレクサンドロスの追撃路をたどって、ダレイオス最期の地を可能な限り特定する。そのあとエルブルズ山脈を抜けてカスピ海へ出る経路をたどり、ペルシア帝国崩壊時の状況を明らかにしたい。 なお今年度に繰越額(¥3,430)が生じたのは、研究会での発表にさいして会場費とコピー代を多めに見積もったことによる。繰越金は次年度に開催する研究発表会に充当する予定である。
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