2011 Fiscal Year Research-status Report
1940-50年代のイギリス帝国における資源保全とグローバルな環境保護主義
Project/Area Number |
23520917
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Research Institution | Kyushu Sangyo University |
Principal Investigator |
水野 祥子 九州産業大学, 経済学部, 准教授 (40372601)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | イギリス / 帝国 / 資源保全 / 植民地開発 |
Research Abstract |
植民地省内に設置された農業と家畜衛生に関する植民地諮問協議会(1943年以降は林業も含まれる)の構成メンバーをはじめ、イギリス帝国内の科学者/官僚が1940年代前半までにいかなる資源保全のあり方を提唱したのかを検証した。特に、かれらが焼畑移動耕作のような現地住民の伝統的な土地利用方法にどう対処したかに注目した。1920-30年代にタウンヤなど現地住民の慣習的な火の利用を組み入れた制度が展開する一方で、30年代半ば以降、かれらの土地利用の根本的な変更を求める意見が科学者/官僚の間に広がっていった。この背景には、現地住民の人口増加と土壌浸食や生産性低下への危機感があった。 1930年代後半から40年代前半にかけて、天然資源を持続的に管理することや、輸出用の商品作物と同様に現地住民向けの食糧の生産力を上げ、かれらの栄養状態を改善することが、植民地開発の新たな構想として掲げられるようになった。科学者/官僚は包括的な土地管理計画の必要性を強く提唱し、現地の生態学調査を行った上で、それに合わせた「正しい」土地利用と農村開発計画を立案すべきだと主張したが、その計画には現地住民の土地利用方法の改良や人口再配置も含まれていた。さらに、効率的な土地管理計画を実施するためには、関連する専門部局と行政当局、現地人のコラボレーターとの緊密な協力体制の確立が不可欠だという認識が広まった。このようにつくられた帝国の資源保全の枠組みが、第二次世界大戦後、実施されるようになったと考えられるのである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
第二次世界大戦後の植民地開発における資源保全の位置づけについて、一次史料を用いた具体的な分析までは踏み込めなかったが、40年代前半までのイギリス帝国における資源保全の特質については、明らかにすることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
第二次世界大戦後のイギリス帝国で、科学者や行政官がどのような資源の管理や保全に関する計画を立案し、実行に移したかを明らかにするために、植民地諮問協議会と植民地省を中心に検証する。また、本年度の国内旅費を使ってイギリス科学振興協会などの年次報告書やイギリス議会文書を閲覧する予定であったが、それができなかったため、次年度に行うこととする。こうした史料の分析により、科学者の意見の多様性や変化、行政官との関係性や意見の相違点に注意を払いつつ、この時期に構築された資源保全のあり方の本質に迫りたい。 さらに、国連食糧農業機関(FAO)が設立された経緯や運営方針、活動内容の分析を始めるとともに、グローバルな資源保全に関する同時代出版物から当時の問題意識のあり方の特徴を捉え、イギリス帝国の資源保全の思想的枠組みが及ぼした影響について考察する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
農業と家畜衛生に関する植民地諮問協議会の報告書をはじめ植民地省関連の史料については、ロンドンのThe National Archivesで調査にあたる。また、オクスフォードのBodleian Library of Commonwealth and African StudiesとImperial Forestry Institute所蔵の未刊行史料を調査する予定である。さらに、FAOやイギリス科学振興協会に関連する史料、イギリス議会文書などの閲覧のため、東京大学や京都大学など国内の研究機関を利用する。加えて本研究では二次文献による研究成果も適宜活用するため、イギリス帝国史、環境史、国連関係などの図書を中心に購入したい。研究成果については、学会や研究会などで報告する予定である。
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