2011 Fiscal Year Research-status Report
縄文土器の破片接合状況の詳細観察による土器破壊行為の類型化に向けた基礎的研究
Project/Area Number |
23520920
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
冨井 眞 京都大学, 文化財総合研究センター, 助教 (00293845)
|
Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2015-03-31
|
Keywords | 考古学 / 縄文土器 / 破壊 / 接合 / 割れ線 / 土器片敷き遺構 / 破損幹線 |
Research Abstract |
ヒトが土器を意図的に破壊した可能性を検討するべく、まず、土器片敷き遺構に注目した。この遺構は、破片になった土器を意図的に敷いた遺構なので、ヒトが破片を配置する前段階である"土器の破片化"にもヒトの意図が関与する可能性が高いと推測したからである。個々の破片の原位置情報と物的属性とを対照すると、特定部位が特定の分布的まとまりを示すことも、口縁方位が定方向を向くこともなく、ランダムな配置と言える。遺構外で破片化させてから持ち込んだとみなせよう。 次に、土器片敷き遺構以外からの出土も含めて、23年度に実見したものや、これまでにデータ収集した完形に近い残存状態の良好な資料の再検討など、約500点の土器のチェックをした。その結果、接合を経て観察される割れ線が、一点に収斂することは殆どなく、また、割れ線の交点でも、器表面に割れ円錐状の破片や剥離が生じるするものは見いだせず、さらに、破損幹線は、土器の外傾部分は斜位ないし縦位、直立部分は縦位に走ることが多かった。従って、多くの土器は、叩きつけられたり石などで叩き割られたりするような器面のどこか一点に強い圧力がかかって割られたのではない、と考え得る。むしろ、土圧など外面への平均化した全体荷重によって割れたと思われるものも目立つ。それらが土器片敷き遺構に用いられる場合には、意図的な破壊による可能性があり、その破壊では、土器に両手を押し当てる動作がイメージできる。 一方、内屈気味の口縁形態でありながら、割れ易いはずの横位方向よりも、端部から鉛直方向に縦位に数単位に分かれて割れる例が、岐阜県下では、加曽利E3式期には確認できないがE2式期のみに複数あった。土器の内外両方向から偏りなく同程度の圧力がかかるような、特殊な環境下で割れた事例とみなせるので、いっそう周到な破壊方法を想定できる。土器を割る作法に対する意識が経時的に変化したかもしれない。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
土器の割れ線の走向の検討を経て、土器の割れ方のパターンを認識し、幾つかの破壊行為のイメージが進んだので、「研究の目的」に掲げた5段階の具体目的において、第3段階に達している部分がある。この点では、当初の計画以上の進捗である。しかし、冬期に予定していた資料調査で、例年以上の積雪により収蔵庫へのアクセスや資料移動が困難、と見学希望機関から回答されたことがあり、見学プランの見直しをしたため、データ蓄積の面では遅れが生じた。また、復元的破壊実験は、破壊行為の具体的イメージを絞り込んでから行うのが効果的なのでまだ着手していない。 以上を総合的にみれば、おおむね順調と言える。
|
Strategy for Future Research Activity |
23年度には、例年を相当に上回る積雪によって、降雪地域の資料見学に支障が生じ、資料調査プランの変更を余儀なくされた結果、資料調査旅費と、その調査後のデータ処理の作業補助のための人件費を、「次年度使用額」とせざるを得なくなった。そこで、24年度には、集中的な資料調査の可能な夏期学休期間に、23年度予定分の検討対象資料のデータ収集(=写真撮影および観察)を終え、さらに24年度予定分も、収蔵施設の所在地を確認してから、積雪地域に立地している施設の資料についてはこの時季に進める。そして、秋期にデータ整理を行い、そのデータ整理で得た知見を基に、冬期には、各資料の破壊プロセスを検討するとともに、土器の出土記録の情報収集のための資料調査を行う。また、並行して、データ収集も進める。この冬期の資料調査は、写真や図面データが作業の中心になるので、保管機関の施設面では積雪の多寡に大きくは左右されないと判断できる。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
夏期に、積雪地域に収蔵施設のある機関を中心にして集中的に資料調査に赴く。23年度に実施予定だった分もあるので、旅費には「次年度使用額」も充てる。収集データの整理・画像処理は資料調査後に実施可能となるから、23年度には補助を必要とする作業規模ではなかったが、24年度夏期からは作業補助を必要とするので、人件費・謝金が夏以降に見込まれる。ここでも、「次年度使用額」も充てることになる。このデータ処理の進捗に応じて、秋期から冬期には再び資料調査に赴く。 このように、資料調査のための旅費と、収集したデータ処理の作業補助のための人件費が、次年度研究費の大半を占める。
|