2012 Fiscal Year Research-status Report
縄文土器の破片接合状況の詳細観察による土器破壊行為の類型化に向けた基礎的研究
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23520920
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
冨井 眞 京都大学, 文化財総合研究センター, 助教 (00293845)
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Keywords | 考古学 / 縄文土器 / 破壊 / 破片 / 割れ幹線 / 土器片敷き遺構 |
Research Abstract |
飛騨や奥美濃をはじめとする岐阜県下の縄文土器の割れに関するデータを、土器片敷き遺構からの出土例を中心にして収集した。土器片敷き遺構では、底部を含む事例は少なく、また、一個体当りの破片面積の小さい数個体から成る例や、一個体当りの破片面積の大きい一ないし二個体程度から成る例がある。前者の場合には、様々な形状の破片があり、従って、土器破損時に人の意図が介在した可能性を探ることは容易ではないが、後者の場合は、もとの完形に近い状態の土器において鉛直方向にはしる複数の割れ幹線が規定する、縦長で時に大ぶりの長方形となる口縁部破片を複数含む場合が多くあり、通常の出土品に見る口縁部破片にはあまり多くない形状を呈するので、土器破損時における人の作為、すなわち意図的な土器の破壊について検討できる余地がある。 なお、土器片敷き遺構の検出遺跡と同一遺跡で、異なったコンテクストで出土した残存率の高い個体では、埋設土器の場合以外でも、大ぶりの縦長長方形が生じたと思われる例は存在する。また、長方形破片は、唐草文系に特徴的な樽形土器に多いが、それ以外に咲畑式に特徴的な外傾器形にもある。考古学で重視されてきた製作的特徴に関わる類型(=型式)とは独立して、破壊的特徴に関わる類型が存在する可能性がある。 縦長長方形の破片の生成方法を探るべく、縄文土器に焼成や器形の類似する植木鉢の破壊実験を、小型品で試行した。底部を有する個体では、割れ幹線は胴部下半で曲線化して全体としては放物線を呈する傾向が強いが、底部を欠いた個体では、面的に荷重した場合に、鉛直方向に複数の割れ幹線がはしり口縁部破片が縦長長方形となる状況を復元できた。実験はまだ小型品のみでパラメータ把握も不十分な試験的段階だが、底部を欠いた状態で面的荷重を施せば、法量の大きい個体でも大ぶりの縦長長方形の破片を安定的に獲得できる見通しをもっている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
土器片敷き遺構から出土した土器に関する資料収集は、23年度に実施できなかった分もおおむね実施でき、岐阜県の類例については、検討対象資料のデータ収集(=写真撮影および観察)はおおかた終了している。また、石川県の資料調査にも着手した。このように資料収集は、平成23年度予定分の遅れを取り戻しており、平成24年度末時点でおおむね予定どおりである。また、収集データに基づいて、割れ幹線の走向を検討して土器の割れ方のパターンの抽出を試みている。ただし、画像処理などデータの体系的整理は、作業補助の学生の確保に手間取り、若干の遅れがある。 その一方で、割れ方のパターン分析に基づく破壊行為の推定のために、現代の植木鉢の破壊にも試験的に取り組み始めた。体系的実験の段階にはないが、破壊で生成される破片の形状を規定する変数の把握や、実験的作業の環境の整備などについて、注意点を整理しつつ、試験的破壊を重ねている。資料収集によって分析データの整ったものについては、交付申請書の「研究の目的」に掲げた5段階の具体目的における第3段階に推移しており、特に岐阜県の事例に関しては、部分的に第4段階にある。 以上を総合的に見れば、おおむね順調、と言える。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度には、交付申請書の「研究実施計画」の予定どおりに、石川・富山両県の検討対象資料のデータ収集をおこなう。また、異なる土器型式圏との比較のために、北陸や中部、北関東や南東北などの参考事例についてもデータを収集していく。さらに、それら実際の資料のデータ収集の目途をつけつつ、現代植木鉢の破壊実験のデータ収集に作業の比重を移し、実験条件を変えながら多くの事例を重ねてデータ蓄積して、割れに関わる変数の把握に努めながら破壊行為の推定における精度を上げていく。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度には、厳冬期までに石川・富山両県の検討対象資料のデータ収集(第1次資料調査)を進め、積雪期には、土器の破片の出土記録との照合(第2次資料調査)に赴く。 24年度には、収集データが豊富になってくる秋口から学生にデータ整理の作業補助を依頼する予定だったが、秋期には人員を確保できず冬季からの実施となったことは、「次年度使用額」が生じたことの一因となった。また、画像データ収集のための第1次資料調査の際に、出土土器破片の出土記録が詳細でない場合も少なからずあることも判明し、出土状況との照合のための第2次資料調査を控えざるを得ないケースがあったことも、「次年度使用額」が生じた背景の一端である。しかし、25年度は春季から人員を確保でき、画像処理も含めてデータ整理を体系的に進められる環境が見込まれるので、25年度に収集予定のデータの整理作業補助(秋季から冬季)や破壊実験補助とあわせ、次年度研究費には相応の人件費が占める。また、学会参加時等の情報交換によって、類似型式の分布する周辺地域について、当初予定していた中越や北関東以外に南東北や中部などにも良質な参考事例が多々あることが分かってきたので、主たる検討対象地域の北陸近辺の様相をより鮮明に浮かび上がらせるべく、周辺地域のデータ収集を前倒しして進められる場合には調査対象地に適宜赴く。
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Research Products
(1 results)