2011 Fiscal Year Research-status Report
土器胎土からみた縄文中・後期土器型式の存在形態とネットワークシステム
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23520931
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Research Institution | Tokai University |
Principal Investigator |
秋田 かな子 東海大学, 文学部, 准教授 (10212424)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 縄文時代 / 土器胎土 / 粗粒混入物 / 土器型式 / 土器製作技術 / ネットワークシステム |
Research Abstract |
本研究は粗粒混入物に着目した簡易な土器胎土観察法から一遺跡出土土器の胎土にどのようなバリエーション(変異)が認められるかの傾向を読み取り、型式論的な構成と対比して土器型式の存在形態および土器の社会的な意味に迫ろうとするものである。平成23年度は、まず考古学専攻生を対象に本研究の方法と意義を説く場を設けて観察補助員5名を募集し、王子ノ台遺跡(神奈川県平塚市所在)出土の復元個体を用いて彼らの観察眼の養成を行った。 対象としたのは主に縄文時代中期、弥生時代中・後期、古墳時代前期の土器(約280個体)である。一地点での通時的な胎土の変化をみたことになり、各時代・時期ともに特徴的な様相が把握された。第1に遺跡の属する地質背景との整合性について、スコリアと海綿状骨針の親和性の高さが認められ、これらが当該地域の土器素材の指標となる組み合わせであることが再確認できた。第2に縄文時代中・後期、弥生時代中期では上記の指標に合致しない個体が多く、岩石砂の種類や形状・粘質土部(基質部)の質感に変異が多いこと、これに対して弥生時代後期・古墳時代前期では、整合する個体が数的により安定的であることが判明した。特に後者では、岩石砂粒の形状、基質部の質感においても器種を越えて斉一性が高く認められ、それ以前との際立った違いとして把握された。これらの点は、土器の製作と使用・廃棄を巡るシステムの変化を示唆しているものと考えられる。 以上は本研究が本来対象とする時代を越えた所見を含むが、「胎土の斉一生」という観点は、縄文時代の土器のあり方を相対化する上で意義があると言える。また本研究の観察方法の射程の広がりについて見通しが得られたことは大きな成果であった。 このほか、粘質土サンプル数点の収集と試験版の焼成、土器片プレパラート20片の作成と撮影を行ったが、前者についてはランダムな収集にとどまっている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究の方法の一端であり、目的のひとつでもあった点に、研究代表者と同程度の精度をもつ複数の観察補助員の養成があった。本年度の達成度の遅れは、研究代表者と観察補助員間の観察結果が整合してくるよう、サンプル砂や土器を繰り返し観察する必要があり、それに相応の時間を要したことが大きな理由である。また精度の低い観察の積み上げには意味がないため、結果として集中的な観察行を行わなかった点が当初の計画と異なる点となった。 しかしながら、そこに割いた時間は、彼らの観察眼が一定の水準に到達するためには必要なものであり、その点は達成し得たために意義はあったと言える。
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Strategy for Future Research Activity |
基本的に、製作と出土の間を埋める基礎的な情報を多くの土器胎土の観察から引き出すという姿勢を維持する。ただし当初より、計画が予定どおりに進まなかった場合には地域範囲を狭めて質の面を確保する対処法を採ることを念頭に置いていた。平成23年度の進捗状況を鑑みるに、この方向にシフトすべきであると判断される。 そこで対象地域の中心を神奈川県域に定め直し、有効な地域的指標としたスコリア・海綿状骨針の混入状況に焦点を絞って追究し、地理的な有効範囲を明確にすることに重点を置く方策を採ることとする。 富士山を給源とするスコリアは岩石に比して認識しやすく、混入の有無や量についての観察に誤認が生じにくい。現況の観察補助員は充分な技能も身につけたと言って良い。同様に粘質土にもともと含まれていたと考えられる海綿状骨針も認識のしやすさをもつものである。しかし火山灰には、風に乗って拡散するという自然営力によるバイアスを考慮した上で胎土観察結果を解釈する必要性もある。 このことから平成24年度は、その前半に富士スコリアの等厚線を参照しつつ、スコリアの飛散状況図を遺跡調査報告書の土層観察記載に基づいて独自に作成する作業、および河川砂、海浜砂の再調査を観察補助員とともに行う。研究代表者はこの間にも県内および周辺地域遺跡の土器胎土観察を進めて集中的に観察すべき遺跡を特定し、後半の長期休暇期間に集中的な胎土観察行を実施する。 以上のように本来の目的と基本姿勢は変更せず、対象地域と観点の絞り込みにより研究を推進するものとする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当該研究費が生じた理由は「達成度」の項で述べたとおり、観察補助員の養成に時間を要したために宿泊を伴う集中的な観察行の実施を見送ったことにある。結果的に生じた研究費は、当初の計画ではウェイトが低めであった、本研究の簡易な観察法と理化学的・自然科学的分析結果とのクロスチェックという点に照らし、土器片と粘質土サンプルの双方に対する委託分析費に充てる。 胎土の理化学的分析方法にはいくつかが挙げられるが、本研究では波長分散型蛍光X線分析法を用いる。併せてプレパラート法による基質部の微化石類の同定と粘質土の生成環境の推定についても分析を行う。微化石類については、平成23年度に作成した土器片プレパラートの拡大接写中に、放散虫と思われるものがすでに認められている。本研究の簡易な観察法により見出された海綿状骨針と、プレパラート法による微化石との対応関係の有無ついて、より多くの試料から確認するとともに、微化石の種類による粘質土の生成環境について専門者の助言を受ける必要性を感じていたところであった。この点から研究費の有効な活用が行えると考える。
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