2012 Fiscal Year Research-status Report
日本列島における細石刃石器群の成立とそのイノベーション
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23520932
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Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
堤 隆 明治大学, 研究・知財戦略機構, 客員研究員 (70593953)
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Keywords | 細石刃石器群 / 起源 / イノベーション / 資料化 / 産地推定 |
Research Abstract |
日本列島における細石刃石器群の起源とその技術革新についての究明が本研究の目的である。平成24年度においては、1:研究の目的への近接法を考えるシンポジウムを実施し問題点を再確認したうえで、2:そのベースとなる石器の基礎資料化、3:資源と人類の関係性を探るための黒曜石産地推定、4:細石刃石器群の出自を示す資料調査を実施した。 まず、細石刃石器群の起源とその技術革新についての接近をはかるため、シンポジウム「細石刃石器群研究へのアプロ―チ」を7月7日・8日に開催し、10人の研究者に発表いただいて、九州から北海道にかかる列島全域でのその問題点を明確化した。 石器の基礎資料化では、地元資料館の保管する長野県野辺山高原の矢出川遺跡・東矢出川の細石刃・細石刃石核等の実測・図化を、23年度に引き続き行った。あわせて、長さ・重量・石材・製作技法・型式などの諸属性を記録し、ファイリングをしたまた、明治大学博物館所蔵の矢出川遺跡発掘資料についても観察・記録化を行った。 黒曜石産地推定においては、研究協力者の望月明彦氏と共同で貴重な文化財を非破壊で分析できる蛍光X線分析によって、東矢出川遺跡(166点)、中ッ原第5遺跡B地点(300点)の黒曜石製の細石刃石器群の産地分析を行った。東矢出川遺跡では、遥か太平洋沖の神津島産の黒曜石が確認されたが、東矢出川遺跡から2kmほど離れた中ッ原第5遺跡B地点には神津島産黒曜石が全くまれておらず信州産が中心であることがわかり、双方の黒曜石利用の違いが明らかになった。 このほか、平成24年6月に奈良文化財研究所で実施された日本旧石器学会に参加し、細石刃石器群の産地分析結果に基づく黒曜石利用に関する発表を行った。また7月には韓国の細石刃石器群資料調査を実施し、国立慶州博物館の張龍俊博士と情報交換を行い、朝鮮半島と列島との石器群の関連性について議論を深めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的である日本列島の細石刃石器群の起源と技術革新の究明を進めるうえで、多様な問題についてどのようにアプローチするのかという整理が課題として残るため、シンポジウム「細石刃石器群研究へのアプロ―チ」を7月7日・8日に実施し、一定の成果を得た。 以下には、第1にそのベースとなる石器の基礎資料化、第2に資源と人類の関係性を探るための黒曜石産地推定、第3に細石刃石器群の出自を示す資料の調査という、研究の3本の課題の達成度を示す。 第1の石器の基礎資料化では、長野県野辺山高原の矢出川遺跡の細石刃石核等の実測56点の図化を行い、長さ・重量・石材・製作技法などの諸属性を記録した。図化の点数は150点を予定しており、前年度の50点とあわせその2/3を完了した。 第2は研究協力者の望月明彦氏による蛍光X線分析によって、東矢出川遺跡(166点)・中ッ原第5遺跡B地点(300点)の細石刃石器群の産地分析を行い、東矢出川遺跡では、遥か太平洋沖の神津島産の黒曜石が確認されたが、東矢出川遺跡から2kmほど離れた中ッ原第5遺跡B地点には神津島産黒曜石がまったく含まれておらず信州産が中心で、双方の黒曜石利用の違いが明らかになった。分析結果の一部は、2012年6月23日日本旧石器学会総会(奈良文化財研究所)のポスターセッションで堤 隆・長崎治・望月明彦「東矢出川遺跡における細石刃石器群の産地推定」として、シンポジウムでは堤隆・望月明彦2012「矢出川遺跡群における細石刃石器群の産地構成」『シンポジウム細石刃石器群研究へのアプロ―チ』23-25頁八ケ岳旧石器研究グループ刊行で報告した。 第3は、列島に隣接する朝鮮半島の細石刃石器群の調査を実施し、相互の石器群の技術・型式上の類似点と相違点について検討した。ただ、列島内の細石刃遺跡の成立にかかわる石器群の資料調査については次年度の課題として残った。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の目的である日本列島における細石刃石器群の成立とイノベーションについての究明のため、以下の方策で今後の研究を推進する。 1:細石刃石器群の資料化。昨年度に引き続き、矢出川遺跡の個人採集資料を中心に細石刃・細石刃石核の図化・属性記録などの資料化を進め、資料報告を行う。 2:蛍光X線分析による非破壊原産地同定の続行。研究協力者の望月明彦氏との協働による原産地推定を継続し、分析報告を行う。とくに中ッ原遺跡5B地点等、信州中央高地を主とした細石刃石器群の産地構成を明らかにし、黒曜石獲得パターンを追求する。 3:列島各地(北海道・東日本等・近畿中国地方など)に展開した細石刃石器群の資料調査を実施し、その成立から展開に関する様相を把握、諸地域への技術拡散や技術革新について究明する。あわせて各地域の石器石材環境を調査し、細石刃石器群の石材利用について研究する。 4:細石刃石器群の起源とそのイノベーションに関するシンポジウムを9月中旬に実施し、研究代表者の研究成果と他の研究者の研究成果との議論を通じ、多角的な視座からその起源とイノベーションを考える。あわせて、研究で扱ういくつかの細石刃石器群を博物館展示し、ひろく市民にも当該期の資料やその研究成果を公開する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度の研究費の使用計画において、謝金としては、昨年度に引き続き、長野県野辺山高原地域の細石刃石器群の図化など基礎資料化を進めるための協力者の謝金、信州中央高地を主とした細石刃石器群の蛍光X線分析による産地推定のための協力者の謝金等に科研費を使用する。旅費では、研究代表者の東日本および西日本の国内旅費、平成25年9月に予定しているシンポジウム「日本列島における細石刃石器群の起源とそのイノベーション」での招聘発表者の旅費の支出を予定している。その他、データ入力用のノートパソコンなど物品費や、シンポジウムレジュメの印刷製本費を使用する計画である。以下が支出予定である。 物品費 200,000円 旅費 300,000円 人件費・謝金 350,000円 その他 64,659円
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