2013 Fiscal Year Research-status Report
日本列島における細石刃石器群の成立とそのイノベーション
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23520932
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Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
堤 隆 明治大学, 公私立大学の部局等, 研究員 (70593953)
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Keywords | 細石刃石器群 / 起源 / イノベーション / 資料化 / 産地推定 / 細石刃研究普及展示 |
Research Abstract |
本研究の目的は、「日本列島における細石刃石器群の起源とそのイノベーション」の究明である。平成25年度においては、1:研究の目的にあわせたシンポジウム「日本列島における細石刃石器群の起源」を実施した。2:そのベースとなる石器の基礎資料化、3:資源と人類の関係性を探るための黒曜石産地推定、4:細石刃石器群の出自を示す資料調査を行いその起源に関する試論を発表、5:企画展示「細石刃-氷河期末を彩るミニ石器展」を実施した。 まず、シンポジウム「日本列島における細石刃石器群の起源」を9月14日・15日に主催し13人の研究者に発表いただき北海道から九州にかかる列島全域、および中国河北地域での様相についてと、その問題点を明確化した。また、ミトコンドリアDNAからみた日本列島のヒトの移住という遺伝子研究サイドのアプローチになる報告もあった。細石刃石器群は、中国・朝鮮半島経由、北海道経由、日本列島での自生という3者の見解が割れている現状にあるが、申請者(堤)は自生という観点に立ってその出自を精査した。 石器の基礎資料化では、地元資料館・明治大学博物館所の保管する長野県野辺山高原の矢出川遺跡・東矢出川の細石刃・細石刃石核等の実測・図化を、23・24年度に引き続き行った。黒曜石産地推定においては、研究協力者と共同で貴重な文化財を非破壊で分析できる蛍光X線分析によって、長野県野辺山高原の中ッ原第1遺跡G地点(550点)の黒曜石製の細石刃石器群の産地分析を行った。その産地は、遺跡から20kmほどの蓼科黒曜石産地とNKと呼ばれる産出地不明の黒曜石が用いられていることが明らかになった。 また、一般に研究成果を普及するための企画展示「細石刃-氷河期末を彩るミニ石器展」(会場:浅間縄文ミュージアム)では、9月14日から11月17日までの期間中約5000人の見学があった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、日本列島において約2万年前に出現した小形石器=細石刃の起源とイノベーションを追うことを目的としている。第1にそのベースとなる石器の基礎資料化が進んでいない石器群についての基礎資料化を進めることを課題としてきた。長野県野辺山高原の矢出川遺跡(国史跡)は、日本で初めて発見された最重要細石刃遺跡であるにもかかわらず、資料化が進んでおらず、25年度までに細石刃約1000点、細石刃石核約600点の図化・計測化を進めることができた。 第2に、資源と人類の関係性を探るための黒曜石産地推定の実施を掲げたが、これまでに野辺山高原の矢出川遺跡において約700点、中ッ原遺跡群において1050点の分析を実施、その産地構成が明らかになり、人類の石材資源開発に関するイノベーションの一端を解明することができた。 第3の、列島内の資料調査では、その起源にかかわるとみられる石器群を調査した。東日本では北海道白滝黒曜石原産地の細石刃石器群と、青森県五川目遺跡の細石刃石器群を実験した。一方、西日本では、島根県隠岐諸島の黒曜石の細石刃への利用状況を調査した。 第4、2012年の研究集会では、細石刃研究へのアプローチ法、、2013年の研究集会では日本列島における細石刃石器群の起源をテーマに開催、2013年には80名の研究者に参加いただき、問題点を多くの研究者が共有でき、議論が明確化した。 第5、広く一般市民にも成果を普及・還元することを目標に掲げたが企画展示「細石刃-氷河期末を彩るミニ石器展」(会場:浅間縄文ミュージアム・申請者勤務館)では、2か月間で約5000人の見学があり、予想以上の研究成果の普及効果があった。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の目的である日本列島における細石刃石器群の成立とイノベーションについての究明のため、最終年度(4年次)となる次年度においては、以下の方策で研究を推進する。 1:細石刃石器群の資料化と研究報告。矢出川遺跡(長野県)資料を中心に細石刃・細石刃石核の図化・属性記録などの資料化を進め、資料報告書の作成を行う。あわせて、報告には英文を添付し、海外の研究者にも日本における旧石器研究成果を伝えるべく作成する。 2:初年度からの3年間を含め、これまで継続してきた蛍光X線分析による黒曜石産地推定研究の成果を総括し、信州中央高地を主とした細石刃石器群の産地構成を明らかにし、黒曜石獲得パターンを追求、細石刃期の石材の流れと人の動きについての視座を組み立てる。あわせて各地域の石器石材環境の調査から、細石刃石器群の石材利用について研究する。 3:列島各地(北海道・東日本・西日本)に展開した細石刃石器群のこれまでの資料調査から、細石刃石器群の成立から展開に関する様相を把握、諸地域への技術拡散や技術革新について、自生・伝播といった観点も含め、検討する。 4:今年度までに2度開催した細石刃石器群に関するシンポジウムの論点などをふまえ、申請者自身の研究成果と他の研究者の研究成果との議論を通じ、多角的な視座からその起源とイノベーションを考える。あわせて、研究で扱ういくつかの細石刃石器群を博物館展示し、ひろく市民にも研究成果を示す。また、講演会の実施およびパンフレット等を作成し、科学研究費を利用した一般には難解とみられる研究の意義を示す。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
設備備品費の使用がなされなかったため、22,320円の残が生じた。 生じた22,320円の残額は、印刷製本費等にあてたい。
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