2011 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23520934
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
寺崎 秀一郎 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (90287946)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 国際研究者交流 / マヤ / メソアメリカ / ホンジュラス / 考古学 / 都市形成 / 国家 / 王権 |
Research Abstract |
2011年度は研究費の30%削減が示唆され、8~9月の現地調査出発前までに当該年度予算の総額が確定しなかったために、調査計画を変更するという判断を下し、発掘調査を実施することは見送り、資料調査を中心とすることにした。 具体的には、ホンジュラス西部コパン遺跡9L-22・23グループ出土資料を対象とした。同グループはコパン遺跡の中心グループの外縁に位置する(中心グループの北約150m)コパンエリート層の居住建造物コンプレックスである。当該グループについては、コパン考古学プロジェクト(PPROARCO)によって調査・修復保存がおこなわれており、報告者もその構成員である。9L-22・23グループはコパン政体を支えたコパンエリート層が都市の外延部にどのように展開したのかを探る上でも重要な居住域である。そこで、同グループの盛衰、特に建築開始時期に関する年代を土器編年だけではなく、自然科学的分析を通じて明らかにすることを目指した。9L-22・23グループの調査では、現在までに500点を超える炭化物試料が得られているか、その中から、居住開始時期、および同グループが盛行する時期に関わると考えられる試料を抽出した。この際、特に出土コンテクストに留意し、埋葬に伴う試料と副葬品についても検討を加えた、その結果、9L-22グループの建造物100、および、9L-23グループの建造物104の試料が有望と考えられた。特に建造物104については、埋葬28、29、31、92、109、114に伴う試料を選定した。これらの試料はホンジュラス国立人類学歴史学研究所の許可を得た上で、日本へ持ち帰った。帰国後、さらに選定試料の出土コンテクスト、および共伴遺物について図面、写真記録で再検討を加えた。これらの炭化物試料は現在、放射性炭素年代測定をおこなっているところである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究課題1年目にスケジュールに遅延が生じている第一の原因は、東日本大震災の影響を含め、予算配分の最終決定時期と現地調査のタイミングの調整がつかなかったことによって、発掘調査実施の決断ができなかったことである。ただし、この点は、長期の現地調査期間は所属先の業務との関係で決まってしまうことを考慮すれば、事務連絡の他、新聞報道等も含め検討し、早期に代替案を立案すべきであった。また、予想しなかった所属先の役職就任に伴い、2~3月期の現地調査をおこなう機会を失したことも若干の影響があると思われる。 第二に、調査方針を切り替えた成果を年度内に公表する予定であったが、試料を分析に委託する以前の準備に想像以上の時間を要したことである。これは、過去の調査によって蓄積された膨大な図面、写真類の整理が不十分であったことに起因する。一部については、デジタルトレースを進め、写真台帳の整理もおこなっていたが、未だ多くは、一次原図の段階に有り、原図の接合や台帳との相互チェックの必要があった。これらの作業に避ける人員やスペースについても検討課題が残る。とりわけ、当該年度に作業スペースとして、ホンジュラス国立人類学歴史学研究所から貸与されたコパン地域研究センターは作業可能な時間帯、曜日が月~金の8時~15時とされており(保安上の理由による制限)、作業効率を高めなければならない。 以上のような問題から、試料の自然科学分析委託のタイミングがずれこみ、年度をまたぐ結果となった。
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Strategy for Future Research Activity |
2年目以降については、1年目の遅延をリカバーするために発掘調査を実施し、本研究課題を推進しなければならない。具体的には、1年目で試料を収集したコパン遺跡の2次センターであるエル・プエンテ遺跡の建造物6の居住開始段階に相当するデータを回収することを主眼とする。建造物6は最終居住段階には当該遺跡の有力者、あるいはその係累の居住用マウンドと考えらており、以前の調査で最終居住段階の上部構造は検出、精査済みである。上部構造のベンチの規模は、ほぼ同時期と考えられるコパン遺跡のエリート層居住区であるラス・セプルトゥーラス地区例と比較しても遜色なく、疑似アーチの存在を示すボベダと呼ばれる断面が台形を呈する屋根の構成材も床面近くですでに確認している。正面階段の残存状態は不良であるが、これらの状況証拠から、すでに調査が先行しているコパン遺跡のエリート層居住区の資料と比較することで、コパン政体の拡大は外縁部がどのように受容し、急激な発展を遂げたのか、同遺跡内の他の建造物の建造シークエンスと連動させ、東南マヤ地域における2次センターが果たした役割について、研究を深化させる。 併行して、諸記録のデータベース化やデジタル化を進め、作業効率の向上を図るとともに、それらを現地側が将来に渡って活用できるような体制作りを進める。そのためには、すでに経験を積んだ現地スタッフに加え、新たな人材の発掘と育成・技術移転ということも視野に入れるべきであろう。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究費の使用については、すでに現地にある機材を活用することを基本とするため、新規に高額な物品を導入する必要はないと考えられる。そのため、まとまった費目としては、次の3点が考えられる。(1)自然化学分析委託料:コパン遺跡9L-22・23グループから採取した炭化物の年代測定(2)旅費・滞在費(3)人件費(謝金):作業員、ならびにアシスタント これらの支出の中でも人件費(謝金)相当予算については、作業効率の上でも優先順位が高いと考えられる。なお、この点については、現地側の規定に従った単価が発生する。その他の消耗品は、現地調達を基本とするので、修復に必要な資材も含め、比較的安価に入手することができる。
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