2012 Fiscal Year Research-status Report
北部ヴァヌアツにおける先史時代後期社会の考古学的研究:石組祭祀遺構を中心として
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23520939
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Research Institution | International Research Center for Japanese Studies |
Principal Investigator |
野嶋 洋子 国際日本文化研究センター, 研究部, プロジェクト研究員 (50586344)
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Keywords | 考古学 / 民族誌 / 社会複雑化 / ヴァヌアツ |
Research Abstract |
バンクス諸島、ヴァヌアラヴァおよびモタラヴァの2島における祭祀遺跡の分布調査を、昨年度にひき続いて実施した。昨年度の調査でその存在を確認したものの、時間的制約から十分な記録が行えなかったヴァヌアラヴァ東部地域において、保存状況の良好な複合的祭祀遺構の事例を追加することができた。モタラヴァ島においても、新たに1遺跡を発見した。現在までの調査の結果、典型的な複合遺跡というのは、集会所、石積ステージ・テラス等、を中心的建造物とし、中央広場を設け、その周辺に住居等を配置する円型の構造を取ること、また広場を挟んだ集会所の対面には、しばしば大型の建物跡が配置されていることが判明した。 モタラヴァでは、主要な遺跡の確認は昨年段階でほぼ完了しており、本年度調査では同島東部に残る大型の複合的祭祀遺跡Qetnegにおいて、遺跡の精査、マッピング、部分的な発掘調査を実施した。その結果、この大型遺跡が二つの相似的なコンプレックスで構成されていることが明確に把握できたほか、発掘作業により、中心的石積マウンド遺構前面に埋もれた石灰岩の石列や、集会所遺構内の地下式炉構造を検出、炉底より年代測定資料も得た。遺構内の表採資料は、鉄斧などの金属製品やガラス片が多いが、遺構外部に設けたテストピットからは、表採資料にはない貝斧や黒曜石など、西洋接触期以前に溯る可能性のある遺物を得ることができた。 ヴァヌアラヴァ南西部では、祭祀施設を伴うタロイモ水田施設跡2箇所において試掘を行い、土壌サンプルを採取、現在、植物化石の分析を試みている。また水田テラス最下部で炭化物集中層を検出、地域における内陸への進出の時期を示す可能性が高く、試料を年代測定に出しているところである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度以降、祭祀遺跡の基礎データを集積することにより、遺跡や遺構タイプの分類が可能となり、典型的な複合的祭祀遺跡については、その基本的構成要素を特定することができた。従って、本研究の第一の課題である遺構の状況把握については、達成する見通しがついたといえる。 重点的調査エリアとした、ヴァヌアラヴァ南西部(祭祀遺構に伴う集約的水田農耕システムが見られる)、モタラヴァ東部(複合的祭祀遺跡が多く見られる)の両地域における詳細な遺跡データの収集と発掘も、ほぼ予定どおり実施できており、本年度の発掘において、遺構の使用時期の特定に繋がる資料や、農耕システムの進展やその時期を探る手掛りとなる資料を得ることができた。ただし、祭祀遺構に関しては、より多くの情報を入手する必要があるため、次年度も発掘を継続する。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度となる次年度には、伝統的なヴァヌアツ北部社会の成立や展開についての考察を行うことを目標に、これまで収集した基礎データの取りまとめを中心に、研究を推し進める。これまでヴァヌアツをはじめメラネシアにおいては、祭祀遺構の詳細な情報が公開されている事例は極めて少ない。本研究で収集した基礎データは、年度末には冊子(報告書)として編集する予定であり、今後の研究やヴァヌアツにおける遺跡保存活動に貢献するものと期待できる。 現地調査は、9-11月頃の時期に、2ヶ月程度を費やして実施する。申請時の予定では、補足的調査のみを行う計画であったが、考古学的データを充実させるため、モタラヴァ東部における祭祀遺構の発掘を継続して行う予定である。より効率的に発掘作業を進めるため、ヴァヌアツ人考古学者に協力を依頼中である。 本研究の一環として実施した古環境に関連する土壌データに関しては、一部を試験的に処理したところ、植物遺存体数が少ない傾向があり、詳細な復元を行うことは難しいと予想される。ただ栽培種などを同定できる可能性はあり、人為的環境改変や土地利用を知る手掛りとなる証拠を得ることを目指して処理を継続する。 調査成果については、発表・論文等を通じて、基礎的な情報の公表を開始しているが、いまだ国内に限られている。今後、本研究の成果をもとに、国際学会での発表や国際誌への投稿も準備していきたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度研究費の大部分は、フィールド調査に使用する。9-10月頃、2ヶ月程度の調査期間を充てる予定である。モタラヴァ東部地域では、本年度と同様のスケールで発掘を実施する予定であり、旅費・長期間の滞在費に加え、調査補助者に対する人件費等が必要となる。また、作業を円滑に進めるため、日程調整が合えば、ヴァヌアツ人考古学者の協力を得たいと考えており、調査協力者への謝金が必要となる。 残る研究費の主たる部分は、追加の年代測定・樹種同定などの理化学分析費と資料分析に充てる。また基礎データの公開については、基本的にはPDFによる配布を考えているが、調査地向けにカラー冊子を作成する予定であり、その印刷に若干の費用が必要となる。
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