2011 Fiscal Year Research-status Report
農村空間の商品化からみた日本の余暇・観光振興の地域差に関する実証的研究
Project/Area Number |
23520947
|
Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
田林 明 筑波大学, 生命環境系, 教授 (70092525)
|
Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
|
Keywords | 農村地理学 / 農村空間 / 商品化 / 余暇・観光 / 地域差 |
Research Abstract |
本研究は農村空間の商品化という視点から、日本における余暇・観光地域の再編と発展の可能性を探り、さらにこの側面から日本の地域差と地域構造を解明することを目的とした。まず、日本における余暇・観光の変遷過程を既存の文献で整理した結果、近年の大きな特徴の一つとして、市民農園や農産物直売所、農村での散策やハイキング、農業体験やクラインガルテン、農家レストランなど、農村空間の商品化による観光振興が盛んになっていることがわかった。また、観光のみならず、農産物供給や都市住民の農村居住、そして景観や環境の保存といった、農村空間の商品化全体の日本における傾向をまとめた。さらに東京の周辺農村、房総半島、三浦半島、北関東、山形県から宮城県にかけての地域において、概括的な調査と資料収集を行った。 この研究では、東京を念頭において、大都市近郊、大都市周辺、大都市圏外縁、遠隔地という地域敵枠組みで事例地域を選択して調査をしているが、そのうち本年度は大都市圏外縁の茨城県日立市下深荻地区の観光農園、山形県朝日町のエコミュージアム活動と観光振興を取り上げ、研究協力者とともに詳細な現地調査を実施した。日立市下深荻地区では、1970年代中頃から1980年代初めにかけてリンゴとブドウの観光農園が開設されたが、現在は農業経営者の高齢化が進んでいる。これを補い観光農園を持続させているのは、他出の息子や娘のほかに、退職者を中心とした都市住民による農業ボランティアであることがわかった。山形県朝日町では、エコミュージアム活動の理念が実質的に地元住民に浸透しており、集落を単位として、自発的な地域資源の活用・維持・管理活動が活発に行われていた。それらの中で、山や湖沼、河川、神社仏閣、棚田、リンゴやワインなどの地場産品などの活用によって、近年観光客を引きつけるようになったものも多くあった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
まず、観光・余暇に関する既存の研究や農村空間の商品化に関する研究の検討によって、全体の傾向をおおまかに捉えることができた。そして、東京周辺と関東地方、東北地方を概括的に調査し、全体のイメージをつかむことができた。さらに、大都市圏外縁と遠隔地の2つの事例地域において現地調査を実施し、その成果を論文としてまとめることができた。また、日本全体の農村空間の商品化についてまとめて、日本地理学会春季学術大会において特別発表(日本地理学会会長講演として45分間)ができた。これらのことから、初期の目的を達したと考えることができる。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成24年度は現地調査を中心に研究を進める。本研究は、東京を念頭において、大都市近郊、大都市周辺、大都市外縁、遠隔地という地域的枠組みで事例地域を選択し研究を進めてきている。平成24年度には遠隔地と大都市圏外縁の事例について調査したが、本年度は遠隔地の事例として富山県黒部川扇状地の調査を加えるほか、東京近郊と東京周辺の事例調査を行う。予備調査の結果として、東京近郊の事例として、東京都練馬区の市民農園や農家レストランの事例あるいは小平市や狛江市の農産物直売所を候補と考えている。東京周辺の事例としては、埼玉県さいたま市見沼地区のクラインガルテン、三浦半島や房総半島の観光農園を候補地と考えている。現地調査は、7~8月までの夏季休業を中心に集中的に実施する。また。10~12月にも、必要に応じて追加調査を実施する。 関東地方と東北地方南部、中央高地の都県庁の観光や農業関係の部署において資料収集と聞き取りを行い、首都圏およびその周辺において、農村空間にかかわる観光の一般的傾向と地域差を整理する。このころまでに平成22年に調査が実施された農業センサスの結果が発売されると予想されるので、それらも参考にする。 現地調査および文献・統計分析も含めた、全体的な研究結果のまとめを準備し始める。その結果を平成24年11月の人文地理学会の大会、平成25年3月の日本地理学会の春季学術大会で発表する。 平成25年度は最終年度であるので、主としてこれまでの研究成果のまとめを行う。必要に応じて4~8月には事例地域の補足調査を行う。8月に国際地理学連合京都大会があるので、研究成果を発表する。12月末までは、全体の研究成果の取りまとめを進め、その結果を学術雑誌に投稿する。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成23年末に、研究代表者が腰部脊椎管狭窄症のために歩行困難になったことから、12~2月に予定していた現地調査を断念せざるを得ない状況になり、573,926円を次年度に繰り越すことになった。 平成24年3月末までに完治したので、平成24年度には現地調査を中心に研究を遂行する。調査の際の旅費と収集データの整理・分析・地図化のための人件費・謝金に多くの経費が必要になる。さらに調査のための地図・空中写真、全国的な分析のための農業センサスなどの統計データや文献の購入費も見込まれる。現地では、レンタカーを借り上げるので、その費用も予定する。
|