2011 Fiscal Year Research-status Report
水産物の有機認証からみる環境ガバナンスと養殖生産地域の変容に関する地理学的研究
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23520949
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Research Institution | Yokohama National University |
Principal Investigator |
池口 明子 横浜国立大学, 教育人間科学部, 准教授 (20387905)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 国際情報交流 / 有機認証 / 第三者認証 / 水産養殖 / ベトナム |
Research Abstract |
2011年度はグローバル化する有機食品と第三者認証制度の関係について文献レビューをおこない事例研究に向けた理論的な検討をおこなった.さらに,ベトナム・メコンデルタのアンギャン省,ヴィンロン省において加工企業,省自治体,生産者らに聞き取りをおこない,近年の経営状況および有機認証導入の実態を明らかにした.これらの結果を以下のようにまとめ,2011年11月にチリ・サンチャゴで開催された国際地理学会で報告した. 第三者認証は,これまで国家により保障されてきた品質を,国際機関や多国籍企業などトランスボーダーな機関によって保障しようとする点で新たなガバナンスの形態として注目されている.とくに有機認証は,生産地である南側諸国の環境持続性を実現するものと期待される一方,消費地である北側諸国の主導で生産基準が形成されることから,生産の実態とのかい離が指摘されている.このことを踏まえて2011.8.9-8.21に筆者がおこなったメコンデルタの調査の結果,次のことが明らかになった.第一に,ナマズの価格低迷に加えてトレーサビリティーの価値上昇などにより,加工企業のなかには自社養殖池をつくり,より垂直的に統合された生産がおこなわれるようになってきたことである.第二に,その統合のあり方は地域差をともなっており,先発地域であるメコン川上流では多くの小規模経営体が生産を担い,安価な市場であるロシアや東南アジアに向けた低品質のナマズを出荷する一方,後発地域であるメコン川下流では企業単位の中規模生産者が現れている.こうしたなか,各省の自治体はEUがほぼ義務化しているGLOBALGAP認証取得に対して補助金を出すなどして促進を図っているが,そもそもの認証取得基準には排水池の設置が含まれており,これが大きな足かせとなって小規模生産者を事実上除外する形になっている.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は有機食品流通のグローバル化を媒介する重要な制度としての「有機認証」に着目し,そこにみられる環境ガバナンスと生産地域変容の関係性を明らかにすることを目的としている.そのために,次の3つの課題を設定している.1)TPC有機認証と養殖産地変化に関する理論的枠組みの検討2)メコンデルタの養殖業における有機認証の導入・基準化・監査に関する調査・分析ベトナム水産輸出加工協会(VASEP)は加工・生産の両段階にSQFやGLOBALGAPといったTPC有機認証の取得を推進している.これらのTPC有機認証を取り上げて,その取得基準と監査手法が小売チェーンや有機運動NGO,専門家といったアクターのどのような「有機」認識や養殖生産認識と関係しているのかを,現地調査に基づいて分析する.3)加工輸出部門・生産部門の取引関係および生産過程の変化の分析加工輸出部門の経営における有機認証の位置づけや取得のための経営対応,生産者との関係の変化について,企業への聞き取り調査から分析する.また,いくつかの行政村を対象に,認証機関・政府機関などとの提携関係,従来の生産環境管理と認証後の管理の相違,経営対応などについて聞き取りアンケート調査をおこない,経営規模による対応の差異を分析する.これらのうち,昨年度特に成果が得られたのは3)の取引関係および生産過程の実態である.聞き取りアンケート調査についてはメコン川上流部の経営体について資料を得て,現在分析中である.また1)については農業部門の第三者認証に関して文献レビューが進んだが,養殖部門に関してさらに文献調査をおこなう必要がある.2)に関しては,GLOBALGAPが定める生産基準について資料を取得した.今後はこの生産基準の作成にかかわる認証団体,コンサルタント,自治体,研究者らに聞き取りをおこなう必要がある.
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は,下記の諸領域について研究を進める.1)メコンデルタの養殖業における有機認証の導入・基準化・監査に関する調査・分析:この研究領域では,とくに基準化・監査に様々なアクターが関係しており,これまでの有機認証の基準作成の経緯を含めて明らかにするためには対象とする自治体を絞って時系列的な資料を入手する必要があると考えられた.そのため,今年度はナマズ養殖の先発地域であるアンギャン省の資源環境局,科学技術局の職員と密な連絡をとり,調査意図について理解をもとめるとともに,持続的な水産養殖に関する彼らの意見や疑問について議論をおこないラポール形成に努める.そのうえで,生産基準作成にかかわった委員や,そのベースとなった生産環境に関するデータなどの資料を収集する.2)小規模生産者の対応に関する調査:昨年度の調査により,企業の統合的生産が地域のナマズ養殖を再編している状況が明らかになった.今年度は,小規模生産者が形成しはじめている生産組合について,その経営を調査し,小規模生産者による環境持続的な生産の可能性を探る.3)ナマズ養殖経営体への聞き取りアンケートデータの解析4)とくに養殖部門を中心とした,有機認証導入の実態や生産地域への影響に関する文献レビューの継続.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
1)物品 初年度にノートパソコンを購入してあるため,今年度は東南アジアの水産業,農村の動向に関する書籍,ICレコーダー,デジタルカメラ等の機器のほか,電池,メモリ等の消耗品の購入に充てる.2)旅費 本年度は,9月,11月にそれぞれ2週間メコンデルタでの現地調査をおこなう.また,京都の東南アジア研究所,千葉のアジア経済研究所での資料収集に旅費を使用する.秋には地域漁業学会での研究報告を予定しており,これに旅費を使用する.このほか,4月にはアンギャン省資源環境局副局長,科学技術局局長,カントー大学とアンギャン大学の研究者が持続的な農業の視察のため佐賀・熊本・鹿児島を訪問した.この視察費用はベトナム側が負担したが,情報収集とラポール形成にとって重要な機会であるため,この視察旅行に同行し,この旅費に24年度予算を使用した.3)謝金 メコンデルタの現地調査では,昨年に引き続き研究協力者であるカントー大学水産学科の研究者2名に調査助手,翻訳・通訳を依頼する.また,英文での論文投稿のため,英文校閲に謝金を使用する.4)その他 資料コピーやベトナムからの資料の送付,アンギャン省職員やカントー大学研究者との通信費に予算を使用する.
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Research Products
(1 results)