2012 Fiscal Year Research-status Report
水産物の有機認証からみる環境ガバナンスと養殖生産地域の変容に関する地理学的研究
Project/Area Number |
23520949
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Research Institution | Yokohama National University |
Principal Investigator |
池口 明子 横浜国立大学, 教育人間科学部, 准教授 (20387905)
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Keywords | 第三者認証 / 環境持続性 / 水産養殖 / ベトナム / 国際情報交換 |
Research Abstract |
2012年度は第三者認証制度のうち,GLOBALGAPに焦点をあててその発展の系譜,導入の動向について文献レビューをおこなった.さらに,ベトナム・メコンデルタのアンギャン省,ドンタップ省,ヴィンロン省においてこの導入にいかに対応しているのかについて,生産者組織を中心に聞き取りをおこなった.また,GLOBALGAPの地域ルール策定にかかわった研究者やコンサルタント企業にも聞き取りをおこなった.これらの結果を以下のようにまとめ,2012年11月に京都市・立命館大学で開催された地域漁業学会で報告した. これまでの第三者認証制度としてはハサップやISOなどがあるが,これらは食品産業では加工部門に導入されるものであり,GAPは,生産部門に導入されることがその特徴となっている.様々なGAPのうち,GlobalGAP(以下GGAP)はEUへのベトナム産養殖ナマズ輸入において取得がほぼ義務化されている.このことを踏まえて2012.8.30-9.11に筆者がおこなったメコンデルタの調査の結果,次のことが明らかになった.GGAPは当初付加価値を生み出すと考えられたが導入翌年には加工企業間の競争下で価格が戻った.ドンタップ省では大規模な加工企業が成長し,垂直統合が進んでEUへの輸出シェアの多くを占めており,これらの企業にとってGGAP取得は垂直統合の1つの動機となっている.一方,小規模生産者が多いアンギャン省,カントー省などの先進地域ではGGAP基準へのコンプライアンスを主要な目的とした生産者組織が形成され,排水処理池の共同設置や飼料の共同購入などの対策がとられている.これらの組織は,適合可能なインフラをもった農家のみをメンバーに加える傾向があり,その基準に合わない農家はテナガエビに養殖種転換したり,廃業するケースがみられている.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は有機食品流通のグローバル化を媒介する重要な制度としての「第三者認証制度:TPC」に着目し,そこにみられる環境ガバナンスと生産地域変容の関係性を明らかにすることを目的としている.そのために,次の3つの課題を設定している. 1)TPC有機認証と養殖産地変化に関する理論的枠組みの検討,2)メコンデルタの養殖業における有機認証の導入・基準化・監査に関する調査・分析.ベトナム水産輸出加工協会(VASEP)は加工・生産の両段階にSQFやGLOBALGAPといったTPC有機認証の取得を推進している.これらのTPC有機認証を取り上げて,その取得基準と監査手法が小売チェーンや有機運動NGO,専門家といったアクターのどのような「有機」認識や養殖生産認識と関係しているのかを,現地調査に基づいて分析する.3)加工輸出部門・生産部門の取引関係および生産過程の変化の分析.加工輸出部門の経営における有機認証の位置づけや取得のための経営対応,生産者との関係の変化について,企業への聞き取り調査から分析する.また,いくつかの行政村を対象に,認証機関・政府機関などとの提携関係,従来の生産環境管理と認証後の管理の相違,経営対応などについて聞き取りアンケート調査をおこない,経営規模による対応の差異を分析する. これらのうち,昨年度は2)のGLOBALGAP策定にかかわった諸アクターを具体的に明らかにした.また3)に関して,昨年度は主に加工企業と生産者の関係性を明らかにし,本年度は生産者組合に焦点をあてることによって生産者間の共同の可能性を検討した.このなかで,同じくGLOBALGAPを導入しているエビ養殖との差異についていくつか知見を得た.今年度はメコンデルタの他の養殖種についても資料を収集してナマズ養殖の事例を位置づけるとともに,成果のとりまとめをおこなう必要がある.
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は,下記の諸領域について研究を進める. 1)メコンデルタの養殖業における第三者認証の導入と対策に関する調査・分析:これまで,メコンデルタの内陸部の主要養殖種であるナマズを中心に調査してきたが,沿岸部で重要種となっているのはエビ・ハマグリである.これらの魚種にも第三者認証,特にGLOBALGAPとMSCが導入されており,これまでの情報から魚種と地域性によって対応が異なることが予想される.本年度はナマズ養殖の特殊性,およびメコンデルタ養殖地域における位置づけを明確にするために,これら他魚種の導入への対応について調査をおこなう. 2)ナマズ養殖地域における第三者認証制度の問題と可能性に関するワークショップと取りまとめ:これまでの調査から明らかになった第三者認証制度の熱帯養殖地域への影響,およびその対策の課題について,メコンデルタでとくに小規模生産者が多いアンギャン省の農水局関係者やカントー大学水産学部の研究者とともにワークショップを2回にわけておこなう.1回目のワークショップでは,熱帯域における水産養殖業の課題の共通性を確認・検討するため,沖縄県の栽培漁業センターにおける調査・議論を同時におこなう予定である.2回目はその成果を受けて,メコンデルタの小規模生産者組織とともにカントー大学で,第三者認証制度の問題点を議論する. 3)第三者認証制度と養殖地域変化の関連性に関する研究成果のとりまとめ:これまでの文献レビュー,現地調査,および漁業組織・行政・研究機関との議論の成果をとりまとめ,学会および学会誌で発表する.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
該当なし
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