2011 Fiscal Year Research-status Report
沿岸域の環境管理における漁業者による環境保全活動の国際比較
Project/Area Number |
23520960
|
Research Institution | The University of Shiga Prefecture |
Principal Investigator |
香川 雄一 滋賀県立大学, 環境科学部, 准教授 (00401307)
|
Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
|
Keywords | 沿岸域管理 / アメリカ合衆国 / 大韓民国 |
Research Abstract |
沿岸域においてもっとも環境変化に敏感だと想定される漁業者に注目し、さまざまな開発事業などにより、いかにして沿岸域が改変され、どのように漁業に影響を及ぼしたかを解明しつつある。漁業者を中心とした沿岸域の住民が環境問題や環境変化にどのように対応してきたかを分析するため、基礎的な資料収集作業を実施した。 対象地域として訪問したのは、ラムサール条約登録湿地であり伝統的に漁業が継続されつつ環境問題が発生している琵琶湖、沿岸域の改変が漁業者を変貌させた瀬戸内海、国際的な比較研究の観点から、ラムサール条約登録湿地や沿岸域開発の問題を抱える韓国の漁村及び湿地と、アメリカ合衆国の五大湖沿岸である。 国内外の沿岸域における漁業集落および漁業者への現地調査を実施するために、既存の統計や先行研究からすでに明らかになっている沿岸域の環境問題と沿岸漁業の実態に加え、沿岸域の開発による漁場の改変と漁業者による環境運動を把握した。沿岸域の歴史的変化に関しては、開発事業によって、どのように地域社会が変貌したのかを解明するために、関連する史資料、旧版地形図、空中写真を漁業集落単位に収集した。さらに国勢調査等の統計データを用いることによって地域社会構成の観点からも沿岸域の居住者の変容を分析するためのデータベース構築に着手した。 研究対象地域の環境政策に関しては各国や沿岸自治体の資料調査を行い、環境運動や住民参加といった視点でどのように変容してきたか、さらには今後の沿岸域における環境ガバナンスのあり方についても情報提供をできるような調査を実施し始めた。 初年度は、現地調査による研究テーマの概要把握と、文献を中心とした資料収集による準備作業が中心であった。国際比較の観点からは漁業者の動向に差異がみられるものの、沿岸域の開発によって漁業や漁業集落での生活が大きな変化の影響を受けてきていることを確認できた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
過去に実施してきた研究方法を踏襲し、開発事業による全体的な沿岸域の変容と、漁業集落単位の地域的な変容を地形図・空中写真・統計データ等から明らかにしていくための、基礎的な資料はほぼ収集できた。琵琶湖や瀬戸内海沿岸の地形図に関しては既収集分に加えて、旧版地形図と空中写真を新規に購入できた。韓国の地形図に関しては現地で購入するとともに、過去に発行された地形図を日本国内で所蔵している場所で複写した。過去1世紀にわたる沿岸域の変化を旧版地形図と現在の地形図を比較することによって把握することができる。アメリカ合衆国の地図は書籍による資料入手にとどまっている。専門家にも照会して地形図の収集を継続する。また現地調査に関する文献を数多く入手できた。 資料収集とともに、漁業者に対して聞き取り調査を行うために現地への予備調査を実施した。琵琶湖はすでに数年前から調査に取り掛かり始めていたので、瀬戸内海沿岸で重要な調査地点となるような場所を訪問した。過去の研究に加えて沿岸域における大規模開発が実施されつつある地域での漁業者への影響を確認できた。韓国の沿岸域では内湾や湿地の干拓、あるいは自然保護区域への登録によって、漁業者に影響を与えたような場所を把握した。土地利用変化や産業構造の変容が日本同様に確認できた。五大湖沿岸では工業都市周辺を中心に沿岸域の環境を確認した。漁業集落との関連は歴史資料や統計資料との照合を含めて、継続的に開発による沿岸域環境への影響を調査する。 既存研究における限界と課題を明らかにすることによって、今後の沿岸域における環境政策の課題を導き出すための論点整理を実行した。また沿岸域の環境政策と漁業政策に関して開発事業を踏まえた政策過程を分析するための、基礎的な文献を収集できた。総じて年度当初の目標に近い地点まで到達できているといえる。
|
Strategy for Future Research Activity |
初年度で収集したデータの中から集約的な調査を実施する漁業集落を絞り込む。選出条件としては漁業者人口や漁獲高といった漁業そのもののデータだけではなく、沿岸域の周辺を含む都市化地域の人口変化や工場の立地さらには農業における生産量の増減を加味して、開発による変化の影響を大きく受けた地域を調査対象とする。 国内の琵琶湖沿岸では滋賀県内の北部と南部によって都市化や工業化の影響が異なる。さらに自治体別の漁業者数も現在では差異が大きい。旧版の地形図や統計データとも比較しながら、漁業を継続的に実施している地域と漁業が衰退してしまった地域、さらにはそれらへの環境問題への影響と漁業者による環境保全活動への関与を明らかにしていく。瀬戸内海沿岸では大規模開発の影響を強く受けている漁業集落を中心に、そこでの歴史変化と環境問題とのかかわりを調査する。 海外の調査地点では沿岸域の開発が工業化や都市化だけでなく観光地化ともかかわっているという現状を踏まえ、関連する産業の調査に観光業も加えていく。都市化や工業化と比べて質量ともに環境問題への影響は少ないかもしれないが、自然環境への負荷という観点からも、観光地化による漁業への影響を見定めていくとともに、集落全体の変化も見渡していく。韓国の沿岸域に関してはほぼ対象とする漁業集落を特定できたが、アメリカ合衆国の五大湖沿岸については工業都市周辺では漁業よりもレジャー産業による沿岸域利用が目立っていたため、対象の選定に躊躇している。既存資料から漁業の実態を確認するとともに環境保全活動に関して、アメリカ合衆国における環境思想の拡散という観点からも、対象地域における環境保全主体に注目する。 今後は沿岸域全域にわたって実施された過去の研究等による調査を踏まえて、地域社会の変容と漁業の変化を、環境保全活動における漁業者による主体的な参加という観点から解明していく。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
設備備品費については、関連書籍資料を継続的に購入する。関連資料は、湿地保全を含む環境問題一般にかかわる書籍に加えて、各湖沼の環境問題と地域住民による環境運動にかかわる書籍を購入していく。現地調査に必要な機器類の補充購入も想定している。とくに現地での位置計測に使える機器は収集した情報の分析に有用であるため、購入を検討する。すでに収集している資料に加えて、新たに必要になった地域における旧版地形図や空中写真についても買い足していくことにする。調査を進めていくにしたがって紙媒体および電子媒体の資料が増えてくるので、データの整理に必要な文具や機器等も購入する。 消耗品費としては現地調査および解析に必要な統計情報をさらに入手する。必要に応じて、画像やデータの保存のために記録メディアを順次、用意する。各種情報や研究成果は印刷していくために、プリンターのトナーを随時補給する。 旅費は、国内での調査として琵琶湖沿岸と瀬戸内海沿岸への訪問に使用する。海外の沿岸域調査として、アメリカ合衆国と韓国にそれぞれ1回、渡航する予定である。公共交通機関が整備されていない場所で調査をするときにはレンタカーを利用する。また研究成果の報告のために学会発表時の使用も予定している。 謝金はデータの処理作業に必要となる。資料が集まってくるにしたがって、作業が増えてくるので、入力者用に充当する予定である。現地調査において専門家に解説を頼む場合にも謝金を使う。そのほかには印刷費と別刷に使い、研究成果の発表のためにポスターの作成経費として用いる。 研究期間の前半は旅費を中心とした調査費用と準備のための設備備品費・消耗品費を重点的に割り当てていたのに対して、後半年度は研究成果を生産するための費用に重点を移していく。
|
Research Products
(3 results)