2011 Fiscal Year Research-status Report
伝承主体における伝承の主体化・内面化についての民俗学的研究
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23520977
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
徳丸 亜木 筑波大学, 人文社会系, 教授 (90241752)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 内面化 / 主体化 / 伝承 / 伝承主体 / 民俗文化財 / 資源化 / 歴史認識 / 移民 |
Research Abstract |
本研究は、以下の2点を大きな目的とする。1).現代日本の民俗社会において、民俗文化に関わる伝承がいかに継承され、再構築され、また創造されているかについて、主に山口県下における民俗学的フィールドワークによる実態調査を行い、今日における伝承のありかたを映像・録音記録を伴った稠密な資料として記録・整理する。2).その資料を基づき伝承主体論の立場から伝承主体(伝承を保持する人々)による伝承の主体化と内面化の過程を分析的に考察し、伝承が今日の地域社会やその社会に生きる人々に果たす有意性を検討し、民俗学研究に資する。本年度の研究実績は以下の通りである。 (1).データベース化の進展について:平成23年度においては、研究計画に従い、従来からの調査で既に得られている録音・映像資料をデーターベース化する作業を実施し、山口県萩市住吉神社や同県岩国市美和町祭礼調査他のフィルム撮影データならびにビデオ録画データの整理・分析を行い、行政による伝承の観光資源化と祭礼集団における伝承の内面化を考察する為の基礎的データを作成した。また、山口県下関市湯玉および川棚地区における画像データならびに話者からの聞き書きデータ他の整理作業を実施する事により、伝承主体としての家・個人を単位とした、歴史伝承の継承、再構築、創造を検討した。 (2).現地調査の実施について:あわせて、湯玉・大河内・川棚集落において調査を実施し、25年~10年前より継続している同地域、同一話者への聞き書き資料と対照する作業を通じて伝承の変化とその変化が伝承主体に如何なる意味を有しているかを考察した。 (3).研究発表について:さらに、日本民俗学会第63回年会において内面化の概念を整理した上で、その視点からの中国火葬受容に関する調査報告を実施した。また、今年度末に刊行した論文も内面化の視点に関わるものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
以下の状況から、本年度は「おおむね順調に進展しているもの」と自己評価する。 (1).全体的な達成状況について:本年度は東日本大震災により研究室資料・機材が被災を受け、その復旧が必要とされたために年度前半の調査・研究活動がほぼ不可能な状況であり、8月と12月に予定していた調査を順延する事となった。しかしながら、年度後半からは、大まかな資料の復旧と機材の修理や準備を終え、従来からの調査資料の再整理、及び分析を進め得た。 (2).研究目的の達成状況について:1).研究目的の一つである、生活体験の内省的な叙述(物語化)である生活史による個人や家に纏わる伝承の記録化については下関市周辺集落における調査資料の蓄積と整理を進めており、その継続と追跡調査により成果を得る事が出来る段階にある。2).民俗文化財としての指定など行政や外部社会との関わりにおいて資源化される伝承の内面化と主体化については、萩市都市および農山村部における祭礼の調査資料の再整理を進め、今後の実態調査を踏まえて考察する段階にある。3).日本の近代化過程における植民地政策により韓国への移住者を出した漁村における伝承の継承、再構築、創造過程の考察については、下関市湯玉集落における聞き書きに基づき既に厚い調査資料を構築しており、録音資料の文字化と再編を進め得る段階にある。 (3).研究発表の評価について:日本民俗学会年次大会(10月7日 滋賀県立大学)における関連研究発表(発表題目「民俗と内面化についての基礎的考察」)を研究計画に従って実施し、内面化の概念を「外在化・客体化を経た民俗が伝承主体の生活の中に再定位され、意味づけられ、一定の規範性を獲得する過程」として規定し、民俗学・人類学関係研究者より評価を得た。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は以下の推進方策に基づき研究を実施する。 (1).所蔵資料データベース化の推進:平成24年度には、研究代表者が所蔵する調査データの再整理をさらに継続し、そのデータベース化を進める。 (2).現地調査の推進:(1)と並行して、1).山口県萩市旧城下町など伝統的都市、2).萩市や下関市大河内地区などの山間部農村、3).萩市や下関市川棚などの平野部農村、4).萩市大島などの島嶼部漁村、5).移民の母村である下関市湯玉浦などにおいてフィールドワークを実施する。 旧城下町における調査は、祭礼行事を中心としたものとなるが、文化財行政との関わりを考察する為に同市博物館学芸員にも調査協力を求め、祭礼を保持する共同体と行政との関わりを、従来の研究に多く見られる観光資源化からの観点だけではなく、伝承主体にその行事と伝承とが如何に主体化・内面化されているかという視点からの基礎的資料を収集する。 (3).生活誌的叙述資料作成の推進:湯玉浦における調査は、録音資料の文字化と編集をさらに進め、データベース化を行うとともに、補充調査を実施する。海外移民経験を有する話者と、ほぼ同世代である母村居住を続けた話者の語りに基づく生活史的叙述による民俗誌を構築する為の基礎的作業を行う。 (4).その他:本年度は、今回の東日本大震災で津波被害を受けた地域(茨城県北部地域など)を予備的調査の対象地域に加え、被災からの復旧・復興において伝承主体の保持する伝承が果たす役割を捉え、非常時における民俗文化の今日的意味を伝承の内面化・主体化の視点から考察する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度は以下の研究費使用計画に基づき研究を行う。 (1).旅費について:平成23年度は、東日本大震災の影響もあり、現地フィールドワークに十分な時間を掛ける事が出来ず、結果的に当初使用を予定していた旅費が翌年に繰り越される形となった。平成24年度においては、平成23年度に実施できなかった調査地域を含めて、基礎的データ収集の為のフィールドワークを重点的に実施する。 (2).消耗品について:使用を予定していた研究室デスクトップパソコンが被災により破損し、平成23年度予算で購入したため、当初購入を予定していたノートパソコンを平成24年度に購入し、現地調査における資料整理に使用する事とし、データ保存・バックアップ用ハードディスク、印刷用プリンタ等を購入する。 (3).人件費・謝金について:資料整理に際しては、必要に応じて大学院生などを雇用し作業を進める。調査においては博物館学芸員や文化財担当行政職員への協力を依頼する。また、本科研研究課題に関心を持つ大学院生を祭礼行事記録作成等に関わるフィールドワークに参加させ、記録の充実をはかる。
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