2012 Fiscal Year Research-status Report
伝承主体における伝承の主体化・内面化についての民俗学的研究
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23520977
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
徳丸 亜木 筑波大学, 人文社会系, 教授 (90241752)
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Keywords | 内面化 / 主体化 / 伝承 / 伝承主体 / 歴史認識 / 移民 / 資源化 / 民俗文化財 |
Research Abstract |
本研究は、以下の2点を大きな目的とする。1).現代日本の地域社会において、民俗文化に関わる伝承がいかに継承され再構築されまた創造されているかについて、主に山口県下において代表者が行った民俗学的フィールドワークによる調査資料と、新たな実態調査に基づき、映像・録音記録を伴った稠密な資料として記録・整理する。2).その資料に基づき伝承主体論の立場から伝承主体(伝承を保持する人々)による伝承の主体化と内面化の過程を分析的に考察し、伝承が今日の地域社会に生きる人々に果たす有意性を検討し、民俗学研究に資する。本年度の研究実績の概要は以下の通りである。 ①.データベース化の進展について。平成24年度においては、平成23年度からの継続として従来の調査で既に得られている、録音・映像資料をデータベース化する作業を継続した。また、山口県下関市湯玉浦における、巨文島移民経験者からの聞き書きデータの整理作業も継続した。 ②.現地調査の実施について。大学本務との関係から現地調査は限定的に実施する事とし、山口県下関市湯玉集落、萩市大島において現地調査を実施した。前者では、巨文島移民経験者からの従来の聞き書きの補充調査を実施し、後者では、年祝い祭礼の現代における変容とその要因についての聞き書きを実施し、共同体における民俗の内面化について分析を加えた。また、茨城県北部の津波被災地域での調査を自治体との連携に基づいて実施し基礎的な資料収集を開始した。 ③.研究発表について。『歴史人類』第41号誌上に、論文「民俗と内面化についての基礎的考察一」を発表し、中国浙江省における火葬受容に関する調査データを用いて、民俗の内面化の実態と概念について検討を加えた。また、『現代民俗研究』第5号誌上に、論文「口頭伝承の動態的把握についての試論」を発表し、統合的な物語として口頭伝承の多声性、多元性について考察を加えた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
以下の状況から、本年度は「おおむね順調に進展しているもの」と自己評価する。 ①.全体的な達成状況について:研究者が約25年前から継続して来た民俗調査データ(録音資料、フィルム写真資料、映像資料)のデジタル化と整理については、おおむね順調に進み、それに基づく論文発表も行い得た。フィールドワークについては、平成24年度は、勤務校の本務が多忙を極めたため、山口県における調査は下関市湯玉地区の巨文島移民経験者への補充調査、ならびに萩市大島の年祝行事予備調査にとどまった。この点については、来年度に補充調査を実施し、十分なデータを集積する事とする。また、昨年度の計画において提示した、茨城県北部における津波被災地区調査を実施し、被災地域の基礎的な民俗資料収集を予定通り進め、地域における祭礼の準備を記録する中で、地域復興と民俗文化の関係性に関わる資料を得る事が出来た。 ②.研究目的の達成状況について:昨年に引き続き、生活体験の内省的な叙述(物語化)については、山口県下関市湯玉の移民経験を有する話者を対象として補充調査を実施し、関連する論考を発表する事が出来た。この視点からの研究は、現在集積しているデーター整理を行い、更に深化させる事が可能な状態にある。旧城下町における調査については、従来調査したデータの整理を進める事は出来たが、まだ十全ではなく、地域の学芸員などの協力を得た上で、現況についての調査を更に進める必要がある。 ③.研究発表の評価について:本科研に関する論考は、年度末に刊行されたものであり、まだ外部的な評価を確認する段階には無く今後の評価を待ちたい。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度である平成25年度は以下の推進方策に基づき研究を実施し、研究の総括を行う。 ①.所蔵資料データベース化の推進:平成23年度からの継続として、研究代表者が所蔵する調査データの再整理を更に継続し、そのデータベース化を進める。 ②.現地調査の推進:①と並行して、昨年度現地調査を実施出来なかった萩市旧城下町、および島嶼部におけるフィールドワークを実施し、ここ5年から25年間の民俗行事や祭礼行事の変容を調査し、民俗の内面化についての更なる資料集積と分析とを進める。本調査に関しては、萩市博物館学芸員にも協力を求め、調査を推進する。 ③.生活誌的叙述資料作成の推進:下関市河内町、川棚、湯玉浦における聞き書き録音資料の文字化を更に進め、データベース化を進展するとともに、聞き書きが不足している部分については補充調査を実施する。伝承者の「語り」に示される生活誌と対応した多声性・多元性を有する物語化のありかたについて更なる理論的考察を進めるとともに、複数話者による「語り」の場における伝承の再構成・形成についても分析を進め、内面化、主体化の観点から行う研究の有意性について見通しを得る事とする。 ④.津波被災地区における地域の復興とその過程での民俗の内面化、主体化について更なる調査を実施し、非常時における民俗文化の今日的意味についての基礎的な分析を行う為の資料収集を進める。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度は、以下の研究費使用計画に基づき研究を行う。 ①.旅費について:平成24年度は本務の多忙のため、現地調査に用いる予定であった調査旅費の執行が十分には行えず、次年度使用額が発生した。計画の最終年度である本年度においては、十分な現地調査を行い得ていない地域についてフィールドワークを可能な限り実施し、資料の整理・分析を進める。 ②.消耗品について:平成24年度において、基本的な機材を購入し研究環境を整い得た為、調査の遂行に関わるデータカードなど若干の購入に止める見込みである。 ③.人件費・謝金について:資料整理については、写真データのデジタル化、デジタルビデオテープデータの取り込み、録音資料の文字化などに関しては、出来る限り研究代表者自身の手で行っているが、最終年度でもあり必要に応じて大学院生の雇用や、業者への依頼を行う。また、調査に際しては、対象地区の博物館学芸員や文化財担当行政職員への協力を依頼し、必要に応じて祭礼行事記録作成に関わるフィールドワークに、本科研研究課題に関心を持つ大学院生を参加させ、記録の充実を図る。 ④.本研究期間内に十分な研究成果が得られた部分に関しては、報告書として印刷する予定である。
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Research Products
(2 results)