2013 Fiscal Year Research-status Report
伝承主体における伝承の主体化・内面化についての民俗学的研究
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23520977
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
徳丸 亜木 筑波大学, 人文社会系, 教授 (90241752)
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Keywords | 民俗 / 伝承 / 伝承主体 / 内面化 / 歴史認識 / 資源化 / 都市祭礼 / 民俗文化財 |
Research Abstract |
本科研は、現代日本の民俗社会において、民俗文化に関わる伝承がいかに継承され、再構築され、また創造されているかについて、民俗学的フィールドワークによる実態調査を行い、今日における伝承のありかたを映像・音声記録を伴った資料として記録・整理するとともに、伝承主体論の立場から伝承主体の「主体化」と伝承の「内面化」の課程を考察し、伝承が今日の地域社会やその社会に生きる人々に果たす有意性を検討し、民俗学研究に資する事を目的とする。 平成25年度は、当初の予定では最終年度であるが、調査の対象に含んだ一部の祭礼行事が本務の都合で調査出来なかったため、期間の延長を申請し、平成26年度を最終年度とする課題の継続が承認された。 平成25年度は、①民俗学的フィールドワークによる、伝統的都市祭礼行事の観察記録(ビデオおよびカメラによる映像記録)の作成を実施した。1)山口県萩市住吉神社における住吉祭、2)同市金谷天満宮における天神祭の2件を対象として実施した。いずれも映像記録を作成する事を得た。②同県下関市湯玉浦においては、移動・移住にみる伝承と伝承主体について考察する目的で、巨文島での生活経験を有する話者への聞き書きを実施した。③また、伝承主体の心意と歴史認識の表現としての伝承を検討する目的で、同市大河内地区、川棚地区の「森神信仰」についての現況調査を実施した。④加えて、離島の祭礼行事を記録する為の予備的調査を萩市大島で実施し、地元との折衝など、平成26年度における調査の準備を進めた。⑤この他、茨城県下においても本課題に関わるフィールドワークを実施した。⑥更に、研究代表者が蓄積してきた撮影フィルムの内、研究目的に関わるデータをデジタル化し整理するとともに、各々の事象の一部を現況と比較し、旧調査時点から現在における伝承の変化と内面化のありかたを検討した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成25年度は、本務との関係で、調査を行い得なかった祭礼行事(山口県萩市大島年祝い行事他)があったが、期間延長が承認された為、平成26年度に調査を実施する事とした。(大島の年祝い行事については平成26年4月12日に本調査を実施済み)。 萩市住吉神社祭礼、金谷天満宮祭礼など城下町祭礼の現況記録については、ほぼ予定通り実施し、映像記録を行い得た。現在、その資料を整理・分析中であり、ほぼ順調に進行している。 湯玉地区においては、補充調査により更に資料の集積を計り得た。また大河内地区、川棚地区においても、「森神」祭礼の変化と祭場形態の変化を確認し、更なる分析に進み得た。 従来、研究代表者が蓄積してきた関連資料のデジタル化については、特に、モノクロ・リバーサルフィルムデータを中心に大幅に進捗した。城下町祭礼他の8mmビデオテープ、並びにデジタルビデオテープのデジタル化と整理、および現況との比較検討についても、暫時進行しており、平成26年度に、更に進める予定である。 本務との関係から、研究機関の延長を申請したが、本研究課題の達成度としては、おおむね順調に進展していると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度は、まだ、調査をなし得ていない祭礼行事に関して、本務との調整をできる限り行い、その現況調査と記録の作成を行う事とする。既に山口県萩市大島年祝行事については4月12日を中心として調査の実施した。従来、年齢階梯的な原理で継承されてきた年祝い行事が、若者の減少という島の年齢構成の変化・人口の減少により、親子関係による継承へとシフトする側面が見られる事や、行事の様式を継承が可能なものとし、参加者に現在の生活の中での楽しみや意義を与えうる形に活性化している点などを明らかになし得ちた。その他の祭礼行事についても、具体的な分析を進める事とする。 湯玉浦のデータについては、録音資料からの発話の書き起こしを更に進め、移動・移住にみる伝承と伝承主体について考察を進める。また、大河内、川棚についても、「森神」や屋敷神に表れる伝承主体の心意と歴史認識についての考察を進める。湯玉浦、大河内については、調査にご協力いただいている話者の方がご高齢の為、ご負担にならない様に十分に配慮した上で、事実関係の確認の為の補充調査を実施する。 従来調査データの整理については、ビデオテープによって記録したデータを中心として更に、デジタル化、データベース化と整理、を行い、現況記録と比較する事によって、伝承の内面化についての具体的な考察を進める事とする。 また、平成26年度が最終年度となる為、今日までの調査資料を整理し、伝承主体による伝承の内面化についての現時点における考察結果を、何らかの媒体を通じて公にする為の作業を推進する事とする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本科研は、山口県他の調査地において、祭礼や行事についての民俗調査を実施し、併せて過去の調査資料を整理・分析する事により、伝承を保持する伝承主体における伝承の内面化と、その主体化について研究する事を目的とするが、調査を予定していた祭礼や民俗行事の一部については、その調査が本務の都合により実施できなかったため、次年度使用額が発生し、繰り越しを申請、承認された。 該当する祭礼や行事の民俗調査を実施し、本科研の報告(報告書あるいは雑誌などへの研究成果の掲載)を26年度に行う事とし、未使用額は必要に応じてその経費に充てる。
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