2013 Fiscal Year Research-status Report
ヤップ出身者の脱領域的公共圏と文化的アイデンティティ
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23520979
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Research Institution | Utsunomiya University |
Principal Investigator |
柄木田 康之 宇都宮大学, 国際学部, 教授 (80204650)
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Keywords | ヤップ / ミクロネシア / 移民 / 公共圏 / オセアニア |
Research Abstract |
研究代表者は平成25年3月30日から4月8日まで米国グアム島に滞在し在グアムヤップ人アソシエーションのキリスト教復活祭ならびに「ヤップ記念日(Yap Day)」に関する活動の参与観察とインタビュー調査を実施した。また10月23日から11月4日までハワイ島ヒロ市に滞在し,ハワイ島在住ミクロネシア出身者のアソシエーションであるMicronesian United-Big Island(MUBI)の年次集会の参与観察を行った。さらにヒロ市在住のヤップ州離島出身者のライフヒストリーの収集,ならびに離島出身者が母社会と現在維持している関係についてインタビュー調査を行った。 グアム島においては「ヤップ記念日」や季節の祝祭におけるアソシエーションの活動は縮小傾向にある。ハワイ島のMUBIは複数のミクロネシア地域出身者のアソシエーションであるため,その活動では個別地域の文化的アイデンティは強調されない。活動の中心はミクロネシア出身者全体のエンパワメント,ミクロネシア出身者への偏見の排除である。当面の中心課題としてミクロネシア出身者の漁撈慣行とハワイ島社会の環境意識の違いに起因する対立の解消が模索されていた。 一方,ハワイ島に居住するヤップ離島出身者は自らをramathau(海の人々)と呼ぶ。彼らは,ハワイ島社会全体と同様に,自らも教育などの共通の価値を持っていることを強調する。このため近年毎年,幼稚園から大学まで,全ての学校のヤップ州離島出身卒業生を顕彰する集会を5月末の休日に開催している。またハワイ島においてもヤップ離島出身者の危篤者が出身島嶼に送り返され,その機会にヤップ離島出身者の広範な募金が実施されたいることを確認し,事例を収集した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成25年度からは,葬儀への献金から明らかになったハワイ島在住のヤップ出身者のアソシエーションに調査の対象を拡大した。具体的にはハワイ島ヒロ市を中心とするミクロネシア出身者のアソシエーションMicronesian United-Big Islandおよび,ヤップ離島出身者のアソシエーションramathauである。これらのアソシエーションの活動は参加者の文化的アイデンティティの発露より,社会的地位の低い移民社会のエンパワメントにあることを確認した。一方,終末医療,葬送儀礼を契機とする募金活動がヤップ本島,ポンペイ島,グアム島と同様に重要であることを確認した。 ヤップ出身移民の終末医療,葬儀に関する協同は,ホスト社会からは注目されない活動である。ヤップを含めたミクロネシア移民は米国政府関連文書,マスメディアではインパクト移民と呼ばれ,ホスト社会の移民関連の政策の経済的負担が強調される。このような論調とは反対の移民を擁護する政府,NGO等の議論も同時に存在する。しかしこれら議論の論点は移民のアソシエーションとしての活動,親族ネットワークとしての活動の関心とは一致しない。この差異の探求が今後の課題である。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は国境を越えて連携されるヤップ人の文化的アイデンティティの民族誌的研究によってヤップ文化を基盤とする脱領域的公共圏 の構造の解明を目的としている。ヤップを含めたミクロネシア移民は米国政府関連文書,マスメディアではインパクト移民と呼ばれ,ホスト社会の移民に関連する政策の経済的負担が強調される。このような論調に対し移民を擁護する政府,NGO等の議論も同時に存在する。 これらの議論の論点はグアム在住の移民のアソシエーションの活動,親族ネットワークとの活動の関心とは一致しない。ヤップ出身移民の関心の中心は「ヤップ記念日」の開催を中心とするアソシエーションの活動と,ヤップ出身の終末医療,葬送儀礼に おける協同である。「ヤップ記念日」に関する活動は近年縮小傾向にあるが,終末医療,葬送儀礼における協同は,親族の活動では あるが,ヤップ出身者としてのアイデンティティを喚起する重要な機会であり続けている。 一方,ハワイ島のアソシエーションの活動は参加者の文化的アイデンティティの発露より,低い社会的地位にある移民社会のエンパワメントを強調している。ただしハワイ島でも終末医療,葬送儀礼を契機とする募金活動がヤップ本島,ポンペイ島,グアム島と同様に重要であることが確認された。 今後の研究方針は第一に政府,マスメディアにおける移民に関する論点と,移民自身の親族,アソシエーションを中心とする関心の差異を明らかにしていく点にある。さらにハワイ島ヒロを中心とするアソシエーションの活動とグアム島のアソシエーションの活動との違いを明示し,活動の違いの要因となるホスト社会と移民社会の関係の違いを明示する必要がある。このためハワイ島でのアソシエーションの調査を拡大する計画である。
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Research Products
(5 results)