2012 Fiscal Year Research-status Report
東アフリカ牧畜民の「五感」に基づく世界知覚に関する人類学的研究
Project/Area Number |
23520980
|
Research Institution | Tokyo University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
河合 香吏 東京外国語大学, アジア・アフリカ言語文化研究所, 准教授 (50293585)
|
Keywords | 東アフリカ牧畜民 / 知覚 / 五感 / 環境 / 身の周り世界(Umwelt) / チャムス / ドドス / トゥルカナ |
Research Abstract |
平成24年度は、本来であれば、平成24年12月~平成25年3月にかけてウガンダの牧畜民ドドスの現地調査をおこない、平成23年度におこなった調査結果との比較資料を収集する予定であった。だが、ドドスの住むウガンダ・カラモジャ地域の政情不安(ドドス自体には大きな混乱はないもののドドスへのアプローチの途上で政府軍と地元住民との小競り合いが頻発し、フィールドに入れない可能性が高かった)と、本務校の業務の都合により、現地調査を断念せざるを得なかった。 したがって、平成24年度は海外調査をおこなわず、国内において、平成23年度の調査結果の整理・分析と文献研究をおこなった。これらの研究には新たに機材等を購入する必要はなく、手持ちの機材と手持ちのデータおよび文献で事足りたため、平成24年度の資金は丸ごと次年度(平成25年度)に集中投入し、長期調査をおこなう資金面での準備を整えることとした。現在、ウガンダの政情は落ち着きを取りもどしており、調査は可能であると考えられるが、万が一再び政情不安に陥った際はケニアの牧畜民チャムスおよびトゥルカナを対象とした調査に切り換えるつもりである。 平成24年度に国内でおこなった研究としては、平成23年度の現地調査で集めた資料の整理・分析を通じて、これに過去の現地調査をもとにして獲得した知見をあわせて考察を加え、チャムスにおける誕生と死について試論を展開した。その成果は「牧畜民チャムスにおける誕生と死:身体として生きる契機」(菅原和孝編著『身体化の人類学:認知・記憶・言語・他者』世界思想社、2013年)として提出した。この試論は必ずしも本研究課題である「『五感』」に基づく世界知覚」を直接的に扱うものではないが、世界知覚の基盤としての身体のありようを明示し、チャムスが世界を知覚する際の「五感」を備えた身体をもちいた回路を考究する上で基礎的な知見となるものである。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
「9.研究実績の概要」にも触れたように、平成24年度は、本来であれば、平成24年12月~平成25年3月にかけてウガンダの牧畜民ドドスの現地調査をおこなう予定であったが、ドドスの住むウガンダ・カラモジャ地域の政情不安(ドドス自体には大きな混乱はないもののドドスへのアプローチの途上で政府軍と地元住民との小競り合いが頻発し、フィールドに入れない可能性が高かった)と、本務校の業務の都合により、現地調査を断念せざるを得なかった。その結果、平成24年度は海外調査をおこなわず、国内において、平成23年度の調査結果の整理・分析と文献研究をおこなうにとどまった。 上記の理由から、平成23年度におこなった現地調査の結果との比較資料を収集することができず、比較研究に遅れが生じた。 ただし、平成24度に国内でおこなった研究としては、平成23年度の現地調査で集めた資料の整理・分析を通じて、これに過去の現地調査をもとにして獲得した知見をあわせて考察を加え、試論を提出した。この試論は必ずしも本研究課題である「『五感』」に基づく世界知覚」を直接的に扱うものではないが、世界知覚の基盤としての身体のありようを明示し、人々が世界を知覚する際の根幹とみなす本研究課題の中心的概念である「五感」を備えた身体をもちいた回路を考究する上で基礎的な概念の提示ができたといってよい。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成24年度に予定していたウガンダの牧畜民ドドスの現地調査をおこなうことができなかったため、本年度はこの遅れを補うため、5カ月程度のやや長期的なドドスの現地調査を実施する。 本研究課題は「『五感』に基づく世界知覚」の人類学の構築を目指すものであるが、知覚は非言語的経験であり、これを言語化することは容易ではない。したがって、インタビューやヒアリングによる調査のみに頼ると言語化されうる身体経験のデータ収集しかできず、表層的なデータに基づく分析に堕する危険性がある。これを乗り越え、身体経験を総合的にとらえるためには、長期的な現地調査を実施し、徹底的に人々と行動を共にし、彼らと環境(「身の周り世界」)の経験を共有することを根拠に、その世界知覚に迫る必要がある。 具体的には、(1)言語表象された経験の内的感覚や情動、および(2)環境の評価、に関するデータの収集に努める。(1)では、知覚と感情ないし情動表現との結びつきがある言い回しや慣用句等を会話場面において収集する。(2)では、自らの身体をおく場所において経験される自然現象を中心にデータを収集する。すなわち、自然環境や気象観測(観天望気、気温、乾湿度、降雨量、風量や風速や風向、太陽の位置、竜巻、蜃気楼、雷、稲妻、霞、虹等)、沢や川の乾湿の程度や水位や水流、鉄砲水などの測定や記載をするとともに、その場に居合わせた人々のこれらの現象に対する言説評価をあわせて記録する。また、人々が身をおく場所(屋敷地、広場、放牧地、叢林、草原、湿地、砂地、ぬかるみ、河原、涸れ沢、井戸等)の状態が、言語的、非言語的にいかに表現されるのかをつぶさに記録する。 今後、成果をまとめあげてゆくために、十分な比較検討ができるようにチャムスとドドスにおいて偏りなく現地調査を実施してデータを収集し、最終的には「知覚の民族誌」から「知覚の人類学」への理論化を図りたい。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
基本的に、ウガンダの牧畜民ドドスの現地調査にかかる諸経費として研究費を使用し、余裕があれば、国内の牧畜民研究者との研究打ち合わせや情報収集のために、これをあてる。 ドドスにおける現地調査は5カ月程度を予定しており、その諸経費として、旅費(交通費、日当宿泊費)、現地の調査助手の雇用経費、インタビューやヒアリングをおこなう相手への謝金等がこれに相当する。
|