2013 Fiscal Year Research-status Report
東アフリカ牧畜民の「五感」に基づく世界知覚に関する人類学的研究
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23520980
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Research Institution | Tokyo University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
河合 香吏 東京外国語大学, アジア・アフリカ言語文化研究所, 准教授 (50293585)
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Keywords | 東アフリカ牧畜民 / 知覚 / 五感 / 環境 / 身の回り世界 / チャムス / ドドス / トゥルカナ |
Research Abstract |
本研究は、東アフリカ牧畜民が、自らの身を起き、行為する現場である「身の回り世界(Umwelt)」としての環境を、いかに全身体的な知覚によって把握しているのかについて、人類学的な視点・方法から解明することを目的とするものである。人類にはいわゆる「五感」の知覚(感覚)機能が備わっているが、われわれはそれらの統合作用によって、身の回りの事物や事象をとりあつかい、また同じ諸感覚を持つ身体的他者と相互に社会交渉をおこなう。知覚機能の統合性は人類の自然的ないし進化的基礎であると同時に文化・社会的な構築でもある。以上を踏まえて、本研究では、ケニアの牧畜民チャムス及びウガンダの牧畜民ドドスを対象とした現地調査を実施し、その結果を相互に比較検討することによって、「知覚の民族誌」から「知覚の人類学」の確立にむけた理論的考察を深めることを目指してきた。 これまでに、2年目にあたる平成24年度は調査対象国であるウガンダの政情不安と学内業務のため現地調査を断念せざるを得なかったが、初年度の平成23年度にはチャムスとドドスを対象とした約60日間の現地調査を実施し、3年目にあたる本年度(平成25年度)は、調査が実施できなかった平成24年度の研究費の全額と本年度の研究費の全額を投入して、ドドスに対象を絞って約5カ月に及ぶやや長期的な現地調査を実施した。 知覚は非言語的な経験を多分に含んでいるため、言語表現を媒介にしてそれを提示したり共有したりすることが極めて難しい。そのような困難な状況に対し、現地調査においては徹底的に人々と行動を共にし、彼らの「身の回り世界」の経験を共有することに努め、そうした「経験の共有」を根拠に、人々の世界知覚のありかたを追った。一方、彼らの生活世界を身体経験と言語表象の統合として分析するために、環境の評価や知覚に関わる語彙や日常会話、独り言やつぶやきなどのデータをあわせて収集した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
昨年度(平成24年度)は、調査実施国の政情不安、および学内業務等により、当初予定されていたウガンダにおけるドドスの現地調査が実施できなかったため、本年度(平成25年度)分と前年度(平成24年度)分をあわせた補助金のすべてを旅費にあて、やや長期の現地調査を実施した。 平成25年10月1日から平成26年3月10日までの約5カ月間にわたるドドスの現地調査はおおむね順調に進んだが、調査の最終期にあたる平成26年2月下旬に現地で発熱し、高熱とその後の微熱、及び強い全身倦怠感により調査を早めに切り上げることを余儀なくされた。そのため、それまでに収集した調査結果にもとづき、事実関係に齟齬があったり、不明瞭な部分を再調査によって補ったり、必要とされる未確認事項を確認するなどの最終的な補助調査の機会を逸した。 また、帰国後に肝機能障害と診断され総合病院の感染症科に即時入院となり、予定していた現地調査結果の整理や分析、およびそれらにもとづく理論的考察がまったくできなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は平成23~26年度にわたる4年計画で開始されたものであり、次年度(平成26年度)はその最終年度にあたる。当初の予定では、チャムスとドドスを主たる対象として毎年2~3カ月程度の現地調査を実施し、これに可能であれば、より劣悪な自然環境に暮らすケニアのトゥルカナにおいても比較のための調査を実施する予定であった。 これまでの3年間においては、初年度の平成23年度はチャムス、及びドドスの両方において合計60日ほどの現地調査を実施し、その後の調査・研究の基礎となる萌芽的なデータ収集ができた。だが、これをもとに、より詳細な調査研究を開始する予定であった2年目の平成24年度は諸般の事情(政情不安や学内業務等)により見送られることとなった。この年度の予算はその全額を次年度(平成25年度)にまわし、3年目にあたる本年度(平成25年度)の予算の全額とあわせて、ドドスにおける約5カ月のやや長期的な現地調査を実施し、より詳細なデータ収集をおこなった。だが、上記「現在までの達成度」にも記したように、本年度の調査期間の最終期に体調不良により総括的かつ確定的な調査が実施できず、本年度の調査におけるデータ収集にはまだ不備が残されている。したがって、4年目の最終年度にあたる次年度(平成26年度)においては、この不備を補うためにドドスの再調査を実施する必要がある。なお、この調査のために、当初可能であれば実施する予定であったトゥルカナの調査は見送らさざるを得ない状況である。またチャムスの調査はドドスのそれより期間が短いが、本研究以前に蓄積されたデータによって補うことが可能である。 一方、最終年度の次年度には、これまでのチャムスとドドスの調査・研究の成果の比較・検討をおこない、これを統合し、総括的にまとめ上げてゆく作業を進める。これにより個別社会における「知覚の民族誌」から「知覚の人類学」の構築を目指す。
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