2011 Fiscal Year Research-status Report
タイ北部、ユーミエンの文化復興運動と民俗知識の再編に関する研究
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23520982
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Research Institution | Tokyo Gakugei University |
Principal Investigator |
吉野 晃 東京学芸大学, 教育学部, 教授 (60230786)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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Keywords | 国際研究者交流 / タイ / ユーミエン / ヤオ / 文化復興運動 / 民俗知識 / 新しい宗教現象 / 廟 |
Research Abstract |
調査実施日程 平成23年8月4日~25日、平成23年9月8日~16日、平成23年12月26日~24年1月1日、平成24年1月20日~25日にタイ王国内で現地調査と文献調査を行った。研究成果 (1)文化復興運動の組織的概要:山地民族の教育文化支援を行っている現地NGOへの聞き取りにより、文化復興運動を進めてきたユーミエン・ネットワークが、各県の主立った村落のボランタリーな参加によって形成されている緩やかな組織であることが明らかになった。 (2)近年の動向:このネットワークとNGOとが協力して、これまで漢字教習、伝統文化セミナー、本の出版などを行ってきたが、近年、予算不足のため、活動規模は縮小している。但し、多数の村落が参加する「ユーミエンのスポーツと文化の祭典」は従来通り行われており、新たにチエンラーイで「ユーミエン音楽祭」も開かれている。 (3)廟建設の動き:従来の文化復興は漢字や伝統文化の教習という側面が強かったが、複数の村において、ユーミエンの神「盤王」を祀る廟の建設を進める動きが出ていることが判明した。 (4)新たな儀礼現象:廟建設の動向と並行して、新たな儀礼現象が生じていることを見いだした。従来、儀礼執行者は男性のみであったが、近年、女性が儀礼を執行し、降神して治療や託宣を行う儀礼が発生している。これらも複数の村落に見られる現象である。(5)新たな宗教現象と文化復興運動との関わり:複数村落における廟建設の動きには、ユーミエン・ネットワークが関わっているものもあり、一方で廟が新たな儀礼の場となっている村もある。このように文化復興運動の新たな側面が見えてきた。 (6)一方、祭司に聞き取り調査を進め、伝統的な儀礼知識の伝承と分布、動態を把握した。 今回見いだした新たな宗教現象は、文化復興運動と民俗知識の再編の新たな側面として重要であり、今後も追究する意義がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
23年度は初年度であったため、予備的調査と概要把握を目途とした。それぞれの研究目標の達成度合いは以下の通りである。(1)文化復興運動の様態の把握: 従来の文化復興運動を担ってきたユーミエン・ネットワークの組織的概要については把握し得た。その主要な行事である「スポーツと文化の祭典」は、毎年3月下旬ないし4月上旬に開かれる。平成24年は3月下旬に開かれたが、勤務先大学の学事および他の調査との調整がつかず、現地調査は執行できなかった。この点が今後の課題として残された。(2)民俗知識の分布と動態の把握: 複数の祭司に聞き取り調査を行い、伝統的な儀礼知識の分布の様態、伝承形式、新たに祭司になる者の動態などを把握し得た。(3)文化復興運動における民俗知識の再編成の内容: 廟建設の動きと新たな儀礼という新しい宗教現象が複数の村落で生じていることを把握し得た。また、この新宗教現象の一部にユーミエン・ネットワークが関与していることも明らかになってきた。廟のような固定的祭祀施設は焼畑移動耕作を行ってきたユーミエンにとっては従来なかった動きであり、また儀礼を女性が執行することも新しい現象である。これらは民俗知識の再編の顕著な事例である。 総じて見れば、スポーツと文化の祭典の調査の機を逸してはいるが、想定外の新しい宗教現象を見いだし、調査できたことは大きな収穫であり、おおむね順調に進んでいると評価できよう。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、現地調査の重点を各村落へ移し、そこで行われている文化復興の動きと、これに関連する新しい宗教現象を調査する。本研究の各テーマ毎にあげると以下のような調査を行う。(1)文化復興運動の様態を把握する調査: 引き続き、ユーミエン・ネットワークと関連NGOのメンバーにインタビュー調査を行い、文化復興運動の組織的基盤を明らかにする。上にも述べたように、ネットワーク自体、緩やかな組織であり、また、文化復興に向けた動きは各村落で独自に行う活動も含まれる。ユーミエン・ネットワークと各村落における活動の関係について、聞き取り調査を行う。ネットワークの会議や行事にも可能な限り参加し参与観察を行う。また、23年度に見いだした新たな宗教現象とネットワークとの関連についても未詳な部分が多いので、この点についても聞き取り調査を続行する。2)民俗知識の分布と動態を把握する調査:各村落で日常的に活動している祭司に儀礼知識の内容、儀礼知識の伝承形態、新たな祭司の養成などについて聞き取り調査を行う。特に、学校教育の普及と出稼ぎの増加のため、村に留まって祭司に成る者が顕著に減っている。その中で、儀礼知識がいかに伝承され、どのような条件下で新たに祭司となる者が出てくるかについても調査する。(3)文化復興運動における民俗知識の再編成の内容に関する調査: 廟建設の動きや、新しい儀礼現象に見られるように、従来の民俗知識の再編の結果としての新たな現象が生じている。また、漢字教習や伝統文化教習のような従来の文化復興運動の中にも多様な民俗知識の特定部分をスタンダード化する、民俗知識の再編が見られた。それらについて、儀礼等を観察調査すると共に、文書や様々なメディアなども資料として収集する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
旅費と謝金におおよそ75%、備品に25%ほどを使用する予定である。旅費・謝金の使用予定は以下の通り。平成24年6月中旬(タイ、聞き取り調査、7日間)。平成24年9月上旬~中旬(タイ、儀礼調査・聞き取り調査、10日間)。平成24年11月中旬~下旬(タイ、儀礼調査・聞き取り調査、8日間)。平成25年2月上旬~中旬(タイ、儀礼調査、7日間)。平成25年3月中旬(国内、文献調査、4日間)。平成平成25年3月下旬(タイ、聞き取り調査、10日間)。備品は記録媒体、記録機器、情報処理機器、研究図書等の購入に当てる。
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