2012 Fiscal Year Research-status Report
タイ北部、ユーミエンの文化復興運動と民俗知識の再編に関する研究
Project/Area Number |
23520982
|
Research Institution | Tokyo Gakugei University |
Principal Investigator |
吉野 晃 東京学芸大学, 教育学部, 教授 (60230786)
|
Keywords | 国際研究者交流 / タイ / ユーミエン(ヤオ) / 文化復興運動 / 民俗知識 / 新しい宗教現象 / 廟 / 女性祭祀者 |
Research Abstract |
調査実施日程 平成24年6月15日~21日、平成25年2月8日~15日にタイ王国内で現地調査と文献調査を行った。 研究成果 (1)廟建設の動き:前回、複数の村においてユーミエンの神「盤王」を祀る廟の建設を進める動きが出ていることを明らかにしたが、本年度調査したチエンラーイ県のユーミエン村落において、大規模な新廟建設が進行中であることが判明した。また、昨年度廟建設の計画があることを確認した村落以外にも廟を建設することを計画している村があることをつきとめた。 (2)新たな儀礼現象:廟建設の動向と並行して、従来男性のみが関わってきた儀礼を女性が祭祀者として執行する新たな形の宗教現象が起きている。本年度はその女性が執行する儀礼の詳細について記録し、歌や儀礼具などと従来の儀礼要素を再解釈して新たな儀礼形式を作り上げていることを明らかにした。 (3)歌唱による儀礼執行:新たな儀礼の中で重要なのは、読経ではなく歌唱によって儀礼を執行していることである。歌唱は儀礼伝承にも関わるが、それとは別の系統の伝承でもあり、歌伝承の追究の必要性を確認した。 (4)ユーミエンネットワーク:文化復興運動の主な担い手であるユーミエンネットワークの活動について聞き取りで把握した。ユーミエンのスポーツと文化の祭典は毎年の開催が定着しており、また、ラオスのユーミエンも参加するユーミエン音楽祭も2013年で第四回になるなど、村落を超えた広域の民族イベントが着実に広がっている。一方で、従来盛んに行われてきた漢字教習や伝統文化教習などの教育活動は予算不足のため活動が低調である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
24年度は、大学内のスケジュール調整がうまく行かず、調査時期が十分にとれなかったため、特に廟建設と新しい儀礼について集中的に調査した。 (1)廟建設と女性祭祀者が参画している新たな宗教現象について、廟の利用法、女性祭祀者が執行する儀礼の詳細について現地調査を行った。二回の調査のうち一回は月並みの一日の儀礼であったが、もう一回の陰暦正月の儀礼は三日間行われ、規模も大きかった。その儀礼の中における儀礼程序、女性祭祀者と男性祭祀者の役割、クライアントへの対応などを詳細に観察し記録に取った。それによって、この新たな儀礼が儀礼としての定型化の途上にあることが確認された。また女性祭祀者に個別に聞き取り調査を行い、女性が祭祀者となる背景を探った。 (2)文化復興運動の主な担い手であるユーミエン・ネットワークの動向について、ネットワーク委員に聞き書きを行い、近年の組織動態と活動実態を把握した。 (3)民俗知識の分布と動態の把握:複数の祭司に聞き取り調査を行い、伝統的な儀礼知識の伝承形式、歌唱法などを把握した。 (1)新しい宗教現象の詳細を調査し得たことは大きな収穫であったが、(2)と(3)については十分な時間がとれず、今後の課題を残している。
|
Strategy for Future Research Activity |
各村落における現地調査を続行し、文化復興の動きとこれに関連する新しい宗教現象、および民俗知識の様態を調査する。次年度は以下のような調査を行う。 (1)文化復興運動の様態を把握する調査:引き続きユーミエン・ネットワークと関連NGOのメンバーにインタビュー調査を行い、文化復興運動の組織的基盤を明らかにする。ユーミエン・ネットワークと各村落における活動の関係について、聞き取り調査を行う。ネットワークの会議や行事にも可能な限り参加し参与観察を行う。 (2)民俗知識の分布と動態を把握する調査:各村落で日常的に活動している祭司に儀礼知識の内容、儀礼知識の伝承形態、新たな祭司の養成などについて聞き取り調査を行う。特に、学校教育の普及と出稼ぎの増加のため、祭司の後継者が顕著に減っている。その中で、儀礼知識がいかに伝承され、どのような条件下で新たに祭司となる者が出てくるかについても調査する。 (3)文化復興運動における民俗知識の再編成の内容に関する調査: 新しい宗教現象の中でも、従来の文化要素を再編成して活用している事例が見いだされた。そのような、従来の文化と新しい宗教儀礼との関係について調査する。特に、従来からある歌謡文化と新しい儀礼における歌唱による儀礼執行との関係について重点的に聞き書き調査を行う。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
大学内のスケジュール調整がうまく行かず、十分な調査時期を確保できなかった。更に、平成25年度の前半に研究専念期間を取得するので、その期間を利用して集中的に調査研究を行うため、未使用額を平成25年度に繰り越した。 旅費と謝金におよそ90%、備品に10%を支出する予定である。旅費・謝金の使用予定は以下の通り。 平成25年4月中下旬(タイ、儀礼調査・聞き取り調査、2週間)。平成25年5月中下旬(タイ、聞き取り調査・儀礼調査、3週間)。平成25年6月中下旬(タイ、聞き取り調査、2週間)。平成25年7月中旬(タイ、儀礼調査、1週間)。平成25年7月下旬(タイ、聞き取り調査、1週間)。平成25年8月中旬~9月上旬(タイ、聞き取り調査・儀礼調査、3週間)。平成25年9月中下旬(タイ、聞き取り調査、2週間)。平成26年1月下旬~2月上旬(タイ、儀礼調査・聞き取り調査、1週間)。平成26年2月下旬~3月上旬(タイ、聞き取り調査、10日間)。 備品は記録媒体、記録機器、研究図書等の購入に当てる。
|